レオニー・リザネク(Leonie Rysanek)没後20年

 Salome (Rysanek, Beirer, Weikl 1980 Japan) - YouTube
 今年は、ウィーン国立歌劇場のオペラ歌手(ソプラノ)レオニー・リザネク(リザネック)が亡くなって(1998年3/7没)、20年にあたるとのこと。今日は月命日でもある。
 リザネクの舞台は、NHKホールで一度だけ観ている。1980年10月2日(木)ウィーン国立歌劇場の2度目の来日公演の折の演目、リヒャルト・シュトラウス作曲『サロメ』で、むろんリザネクがサロメを演じた。この来日公演のプログラムは総花的ではなく、モーツァルトの2作品『フィガロの結婚』『後宮からの逃走』と、R.シュトラウスの3作品『ナクソス島のアリアドネ』『エレクトラ』そして『サロメ』であった。
 以来『サロメ』は生の舞台でもDVDでも多く鑑賞しているが、演出の多様な面白さを別にして、歌唱の表現力でリザネクほど感動したサロメはない。記録しておきたい。




1980年来日公演プログラムより

 さて初日の「フィガロの結婚」に続いて二日目は「サロメ」である。何はさて措いても、豊穣なオーケストラの音に唸らされた。NHKホールがこんなにも響き渡った事があったろうか? 粘りのあるppから巨大なffに至るまで、音色は艶麗さを失わない。粗野と洗練の混在するこのオペラにおけるオーケストラこそ、成功を左右する大切なキーポイントを握っている。これらの《音》をふまえての「サロメ」が、ワイルド=ビアズリーではなく、シュトラウスクリムトの世界をうかび上がらせているのも、ウィーンならではの舞台である(演出・バルロク)。世紀末的頽廃とグロテスク、そしてその果てに見る巧緻と爛熟を、クリムト的装飾意匠の中に閉じ込めた演出の意図も成功である。日本に紹介されるのが遅すぎたリザネクの実力はここで十分発揮された。少女の中にある残忍さと官能への衝動を、彼女は見事に演じ抜いた。ヘロデのバイラーの進歩も特筆に値する。これまでの一本調子だった彼の歌に《表現》が見えて来たのである。必要以上に分別臭く演じ勝ちのヨカナーンもヴァイケルの若さが加わって良かった。ひとつ残念なことは、肝心の幕切れがきまらなく、これはウィーンと劇場の寸法が異なったためだろうか。指揮はホルライザーが職人的手腕で手堅くまとめていた。2日・NHKホール、1階Cの15列15番にて。(畑中良輔『日本経済新聞』)