三権分立はアメリカのスタイル


……この革命(※アメリカ革命)の精神も、アメリカ建国の父たちの思想豊かで博識な政治理論も、ヨーロッパ大陸にたいして注目すべき多くの影響力を与えなかったということは疑問の余地がない事実である。とりわけアメリカ革命の人びとが新しい共和政の最大の革新の一つだと考えたもの、すなわち政治体内部における三権分立というモンテスキュー理論の適用と精密化は、ヨーロッパの革命家の思想のなかではまったく小さな役割しか果さなかった。それは、フランス革命が起る前にすでに、国家主権を重視したテュルゴーによってただちに拒否された。彼の「統治権(majesty)」—majestasというのはもともとジャン・ボダンの言葉であったが、のちに彼はそれを「主権(souveraineté)」という言葉に翻訳した——は分割されない中央権力を必要とするというわけであった。国民の主権すなわち公的領域の統治権そのものが、幾世紀にもわたる長い絶対的王権のもとで理解されてきたために、共和政の樹立と矛盾するように思われた。いいかえれば、どんな革命よりも歴史の古い国民国家が、革命がまだヨーロッパに姿をあらわさないうちに、すでに革命を打ち破っていたかのようである。……( ハンナ・アレント『革命について』志水速雄訳・中央公論社p.22 ) 
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20140114/1389701075(「映画『ハンナ・アーレント』鑑賞:2014年1/14 」)