死神博士=天本英世




 天本英世の『スペイン巡礼』(話の特集発行・1980年)の「グラナダ滞在」のところでは、むろんロルカに多く触れているが、それはそれとしてスペインの昆虫の話は興味深い。
……昆虫の話になるが、スペインは不思議である。昆虫が本当に見当たらないのだ。まず蟬、これがほとんどいない。蟬の鳴き声をほとんど聞かない。私がスペイン中歩いて蟬の鳴き声を聞いたのは、ほんの数回しかない。それもほんの一、二匹の声で、日本のように一斉に鳴くというのは聞いたことがないのである。虫といえば、蟻と蜂と蚊くらいなもので、それに道を、人を導くかのごとくとんでゆくあの通称「みちしるべ」はんみょうの類をいくらか見ただけである。それに紋白蝶くらい。どうしてスペインで昆虫の姿を見ないかを昆虫学者にでも聞いてみたいものである。……(p.172)