正しい医療とは

【追記】 2003年8/16李漢栄(Kan-ei,Lee)医師は亡くなったとのこと。5/10の日記に、『★ 転移性食道癌になって良かったこと』と題して「皆さんのご厚情を知ったこと。酒代が減ったこと、罹る前は一日ビール 4Lは飲んでいましたが、今では 1Lも飲めません。そして、食道癌にまた罹らない科学的根拠を知ったこと」と記している。ご冥福を祈りたい。
 http://blog.livedoor.jp/leeshounann/archives/51964009.html(「異端医師のブログ」)
 
 リー湘南クリニック院長李漢栄(Kan-ei,Lee)医師の『癌患者を救いたい–PSA検診の嘘』(六然社)は、医療について啓蒙されることが多い。患者が賢くなり、肩書きや似非権威に惑わされないことを求めている。李医師は泌尿器科が専門で、この書の副題にもある通り、PSA検診の「有害無益」なることを強調しているが、あるべき医療行為全般について警告を発している。超一流の医学雑誌は、米国と英国の医学雑誌で、日本の雑誌は、中学生の作文論文程度でも掲載されるほどのレベルだそうである。李医師は、北里大学を卒業して病院勤務の後、米国ロチェスター大学医学部泌尿器科で研究員・助教授を勤め、帰国後国内病院勤務を経て現在に至っている。あまりにもレベルが低いとする国内学会には属さず、『経験に照らし、新しい概念や知識を身につけていくには、「一流〜超一流の英米論文」を辞書を片手に読むしかない』としている。この書の巻末には、著者の英論文題名が20掲載されている。
 かつて英国の超一流内科誌で、「1)日本の医師は、データより経験を重視すること、2)「医局構造、先輩医師への従属」が、日本に「証明医療」を定着させない原因であると指摘されたことがあるそうである。李医師はこれに追加して、3)ほとんどの医師が欧米の一流医学誌(英語)を読んでいないこと、4)ニセ医学と科学的データに裏付けられた医療を区別できない医者と患者、5)無駄な検査・治療を行わないと儲からない保険医療制度の仕組みを挙げている。
 この証明医療とは、ある医療行為(治療・検診)の有用性を「無作為化対照試験=RCT(Randomized Control Trial)」で検討された結果を順守することをいう。たとえば、新しい抗がん剤が開発された場合、どの患者にその薬かブラセボ(偽薬)を用いているのか、試験参加の医師が知らされないで治療にあたるような方法(無作為化二重盲検法)が、近代医学のゴールドスタンダードであるとのことである。
 さて癌の病期には、一般的にⅠ粘膜内に限局した癌、Ⅱその周囲に拡がりを見せる癌、Ⅲリンパ節への転移がある癌、Ⅳ他の臓器に転移がある癌の、進行する四つの病期(=stage)がある。ⅢとⅣの癌は、転移する能力のある癌なので、どんな治療をしても最高3年の延命効果のみで、治すことはできない。ⅠとⅡの病期でも、転移する能力があるかないかで異なる。転移する能力がない癌は、「放置しても命を取られない」。
……欧米で、癌検診の有用性を検討した無作為化対照試験(RCT)の結果をみると、検診群ではいわゆる「早期癌」の発見率は高くなるのに、非検診群にくらべ総生存(OS)は変わらない。これは癌の自然史からみれば、自明の理なのだ。……(同書p.75)※OS(overall survival)とは、「患者が全滅=死亡するまでの期間」。
 早期前立腺癌と診断された患者について、「根治的前立腺全摘術」の手術を受けた場合と、「無治療様子見」の場合とで、生存率(over mortality)に差がない、という無作為化試験の結果が出ているという。欧州では、PSA(Prostatic Specific Antigen)検診をやめる傾向にあるか、すでに廃止したかだそうである。李医師は、クリニックで前立腺癌手術を放棄し、その前提となる生検も実施していない。多数のPSA血症の人および前立腺癌の患者を無治療経過観察をして、「PSA値は、横ばい、上下、漸減、漸増と様々だが、転移が出現した方は皆無」だそうである。死亡例3例は、初診時にすでに全身転移があった患者だった。なるほどそうか。こちらも2009年PSA 検診を受け、PSA値は2.0(陰性)であった。この検診に関しては李医師の見識と方針を信頼し、もう受けないこととしよう。
 李医師が、国内某病院の勤務医であったころ、ある製薬会社の営業マンから10名ほどの患者に対しての、ある抗生物質注射について「はいorいいえ」のアンケート回答を依頼されたときのこと。10の返答につき10万円の謝礼をもらった。その他製薬会社の接待の記述は驚くばかりだ。「ぺいぺいの医師に、このような接待だから、教授クラスの接待は、豪華絢爛に違いあるまい」と書いている。病院がやたら薬を出すわけであると、大いに納得させられた。ちなみにこちらは、いま目薬と花粉症(hay fever)の鼻スプレー(ケトチフェン含有)の市販薬のみ使用している。

癌患者を救いたい―PSA検診のウソ

癌患者を救いたい―PSA検診のウソ

⦅写真(解像度20%)は、東京文京区湯島天満宮の紅梅。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆