ひとり芝居のこと


 今年81歳になるという俳優・坂本長利(ながとし)が、この30日に、ひとり芝居『土佐源氏』を上演するそうだ。元ネタの原作者・民俗学者宮本常一の没後30年記念公演にあたるという。この芝居、すでに国内外で通算1140回を超えて上演されているらしい。話に出てくる馬喰の傘寿の歳に役者も達しているわけだ。(情報は「東京新聞」7/19による。)
 このひとり芝居、700回目の舞台を観劇したことがある。『百目ロウソクがゆらめくだけの裸舞台。よろぼい出て来た乞食の一人語りが始まる。「あんたもよっぽど酔狂者じゃ。乞食の話を聞きにくるとはのう……」』と、パンフレットの書き出しにある通り、盲目の乞食となった元馬喰の色懺悔の物語。1時間ほどのモノドラマであったが、女は男のどこにどうしようもなくひかれるのかが、何となくわかった気にさせてくれる舞台ではあった。

 ひとり芝居の名舞台といえば、渡辺美佐子の『化粧』(井上ひさし作・木村光一演出)が思い起こされる。かつて地人会第三回公演(於東京下北沢・本多劇場)で観たことがある。よい舞台であった。渡辺美佐子は、NHK朝ドラ『おひさま』でも、声はまだ変わっていない感じ、魅力的だ。
 ひとり芝居ではほかに、本日7/20誕生日の小川範子の『不真面目な十七歳』(於世田谷パブリックシアター/シアタートラム)、『あのこは だあれ?』(於東京労音アールズアートコート)も面白かった。小川範子の舞台では、大地真央主演の『マリー・アントワネット』が印象に残っている。女優として活動していないのは、寂しい限りである。
マリー・アントワネット』のHP記載の観劇記を再録しておく。

◆11/8(月)東京新橋演舞場で、大地真央(王妃マリー・アンワネット)主演、小川範子エリザベート王女)、山本學(弁護士ラガルド)、団時朗錬金術師で山師カリオストロ伯爵)、羽場裕一(ルイ16世)、大浦龍宇一スウェーデンの大佐フェルセン伯爵)、高橋かおり(ジャンヌ・ド・ラ・モット夫人)らの助演で、『マリー・アントワネット』を観た。演出は、齋藤雅文。夜の部の公演を2階S席にて鑑賞した。
 好演の羽場裕一(ルイ16世)の優柔不断振りが時に笑わせ、時にイライラさせ、そして腹立たしくさせる展開で、王妃アントワネットの不幸の震源もここにあるかと思わせて、最後の幽閉されたパリ・タンプル塔の場面では、王の苦悩と温かさを観客は知らされることになり、涙とともに、断頭台にルイ16世を、続いて王妃マリー・アントワネットを見送るのである。宝塚と歌舞伎の融合ともいえる舞台であった。興味をひく登場人物は、カリオストロ伯爵で、山師としてマリー・アントワネットに宮殿を追い出された彼が、民衆のほう起を煽ることによって王妃への復讐を謀る。革命の烽火があがると、宮廷の没落を予想し、それ以上は関わろうとせず、「願いは達した。この後に起こることは、愚劣さだけだ」などと言って外国へ去ってしまう。一つのフランス革命あるいは革命一般についての観察として、面白く聴いた。
 エリザベート王女を演じた小川範子さんは、清らかなしかし芯の強さを秘めたこの女性にふさわしかった。大地真央さんが大輪の深紅の薔薇とすれば、小川範子さんは、百合の花でしょうか。第2幕第4場Bの舞台で、エリザベート王女は宮殿の部屋に乱入してきた群集の前に立って「私が王妃マリー・アントワネットです」と凛とした声で告げる。この場面での小川範子さんの演技は、内面の強さを表わしていてとてもよかった。第3幕第2場Bのパリ・タンプル塔の舞台では、彼女の抑えた清潔感のある声が、この場面の大いなる悲哀をいっそう漂わせて感動的であった。
 小川範子さんによれば、新橋演舞場の楽屋は地下2階にあるそうで、エレベーターがないので、その重い衣装のまま階段を降りていくのだそうだ。窓がないのでこちらも地下牢のようだなどと、とぼけたことを記しているところに、女優小川範子の魅力があるのだろう。
 2F食堂の「ちらし弁当」(2000円)は美味しかった。かつてきいていた上野御徒町の「勘太」の寿司にはお目にかかれなかった。やはり店とともに無くなってしまったのだろうか? 売店で、大地真央さん直筆サイン色紙を購入した。(2004年11/20記)
 http://www.youtube.com/watch?v=BnGnu066ZSE
 http://www.youtube.com/watch?v=Sf0F37iYaDY
 http://www.youtube.com/watch?v=-umKhxdQBlM
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のコリウス。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆