井上ひさしの芝居




  相当なDV歴があったらしい劇作家の井上ひさし氏が逝去とのこと。この劇作家の必ずしも熱心な観客ではなかったが、五つほどの舞台を観劇している.
 芸能座アンコール公演『しみじみ日本・乃木大将』木村光一演出:新宿紀伊国屋ホール:1979年
 五月舎江戸三部作連続公演中2作品『藪原検校』『小林一茶』木村光一演出:新宿紀伊国屋ホール:1979年
 五月舎公演『イーハトーボの劇列車』木村光一演出:呉服橋三越劇場:1980年
 こまつ座公演『日本人のへそ』栗山民也演出:千葉市川市民会館:1985年
【追加】地人会公演・渡辺美佐子ひとり芝居『化粧』木村光一演出:下北沢本多劇場
 http://www.shochu.or.jp/kajitsushu/homemade/autumn/karin.html(「ひとり芝居」)
 どれも夢中で楽しんだ記憶がある。「日本のあらゆる演劇的なものが吹き溜まっていた」とみずから述べた(「the座」No.3)浅草の小屋を演劇人としての出発点とする井上のつくる舞台は、かつてそこで要求されていた「(物理的)時間の暴虐に抗する数時間の砦」としての世界であった。だから哄笑と猥雑さを孕んだ一場(いちじょう)の夢として、幕が降りるとともに観客の想念は消失してしまう.決して深層に突き刺さるような台詞のことばの一片も残さない.だからいま、若き女優石田えりのまぶしい肢体と、馬の頭の印象のみしか思い出せない.天才的であったことはたしかだろう.冥福を祈りたい.