修辞学(弁論術)の伝統とソフィスト(ソピステース)

 

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 田中美知太郎の『ソフィスト』(講談社学術文庫 1976年初版)は、「詭弁家」として悪名高かった古代ギリシアソフィスト(ソピステース)らの積極的に評価すべきところを史料に基づいて明らかにし、当時知的興奮を覚えたものであった。

……ソピステースの引き受けた「人間の教養」は、また同時に普遍的教養なのであった。ゴルギアスのように、弁論術だけで足りるとすることは誤りであるにしても、元来すべてのことについて語られるのを本質とする言論(ロゴス)というものの取り扱いに関する技術が、このような普遍的教養の外枠や土台として役立ちうることは事実である。(p.126)

 さらに、大きな西洋文化史の文脈においてソピステースの弁論術を位置付けている。

 それはともかくとして、われわれは弁論術が、ソピステースの時代に最も人気のある学科であって、それがローマ時代の教養を独占し、ヨーロッパ文化に重大な影響を及ぼしたことを忘れてはならない。ヨーロッパの政治も文学もこれなしには理解できないのである。ペリクレス、デモステネス、キケロカエサル(いわゆるシーザー)以来現代に至るまで、弁論家にして政治家であった人は無数であり、かのアウグスティヌスラクタンティウスなどが弁論術の教師であったことも周知の事実である。そしてゴルギアスの弟子とも言われるイソクラテスは、ヨーロッパ文章道の始祖となって、その影響は今日の散文芸術の隅々にまで痕跡を止めているのである。そしてわれわれはこの弁論術に対するソピステースの寄与がけっして少なくはなかったことを忘れてはならない。それは言論の取り扱いを中心に、文法や詩文の解釈にまで及ぶもので、いわゆる人文教育の基礎はソピステースによって築かれたとも言われている。(p.128)

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      (『岩波プラトン全集9』所収「ゴルギアスー弁論術についてー」)