辻萬長=ラゴージン(『ナスターシャ』)の舞台

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 辻萬長といえば、1989年、東京江東区ベニサン・ピットにて上演されたアンジェイ・ワイダ&マチェイ・カルヒンスキィ脚本、アンジェイ・ワイダ演出の『ナスターシャ』(ドストエフスキー原作『白痴』より)でのラゴージン役が、最も印象に残っている。2016年10月10日付のブログ「アンジェイ・ワイダ監督追悼」にその舞台について書いている。再掲してこの名優を偲びたい。なお奇しくも、明日8/24(火)新宿の紀伊國屋サザンシアターにての、こまつ座公演、井上ひさし作、鵜山仁演出『化粧 二題』を観に行くことになっている。出演は、内野聖陽有森也実である。(しまった、チケット確かめたところ、8/19(木)だった。またやってしまった。さいたま芸術劇場の7/24(土)の公演チケットと混同してしまい、そちらはむろん行っているが、24日ばかり頭にあったわけだ。自宅で発覚して不幸中の幸い。)
アンジェイ・ワイダの仕事で個人的に最も魅力的であったのは、その演出の舞台であった。ドストエフスキー原作『白痴』を元にした、『ナスターシャ』(1989年)である。江東区のベニサン・ピットが会場で、ラゴージン(辻萬長)の住居が舞台という設定。その空間は、美術担当のクリスチーナ・ザフワトヴィッチによれば、「演劇の装置ではなく、昔のロシア人の家の大きなサロンを再建すること」にあったとのことである。坂東玉三郎が、ナスターシャとムイシュキン公爵の二役であるところが、この芝居の肝といえた。ポーランドクラクフで上演されたときは、二人の男優、ムイシュキン公爵役とラゴージン役が登場し、ナスターシャはすでに殺害され亡骸となっており、二人の回想の中で語られるのみであったという(マチェイ・カルビンスキ「狂気、愛、死ーアンジェイ・ワイダによる『白痴』の演出をめぐって」『ポロニカ』恒文社NO.3 )。役者の上演ごとの即興性に委ねた演出のクラクフの舞台に対して、東京での上演は、完結した作品となっている。
 ワイダは、日本滞在中に知り合った女形坂東玉三郎を、ナスターシャ役として起用するアイディアを思いついたのである。

……しかしながら、ーー厳密に言えばーー坂東玉三郎はナスターシャ・フィリッポブナを演じたのではなく、ときおり彼女に姿を変えたにすぎず、基本的にはムイシュキン公爵の役割を演じている。まさにこの点に実験の神髄がある。この同じ俳優が同じ芝居の中で男女の二役を演じるのだ。舞台上にはムイシュイン公爵として登場し、芝居の筋のキャンバスとなる通夜をラゴージンとともに始めたのだ。けれども、二人の男が死者の記憶を呼び覚まし、情念が狂気の域まで高まるときにはーー日本の役者の変貌の技によってーームイシュキン公爵は一瞬のうちに、観客の目の前でナスターシャに変貌するのだった。(前掲論文・坂倉千鶴訳)

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