『おちょやん』ヒロインのモデル=浪花千栄子と谷崎潤一郎

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 NHK朝ドラ『おちょやん』の最終回、再び道頓堀の舞台に立った竹井千代の幻覚として、客席の階段上でいずれも死別している、毒父だったが最後の最後に千代が赦したテルヲと、優しかった母、それに弟のヨシヲが声援を送っている場面があったが、余計であった。プロのひとりの女優として力強く決意して舞台に立った以上、あくまでも大人のプロの役者である。幻覚に出てくるとすれば、女優への憧憬を千代に与えた高城百合子(井川遥)と、舞台での声出しの基本から特訓してくれた山村千鳥(若村麻由美)だっただろう。亡くなった家族らの幻は、舞台が跳ねて楽屋に戻ったときか、家で眠りにつくときかでよかった。
 とはいえ、ヒロイン竹井千代役の杉咲花の熱演もあり、面白く観てはいたのである。モデルとなった浪花千栄子出演の舞台はむろん、映画作品も観ていないのだが、谷崎潤一郎と親交があったとのこと、名女優であったことは間違いない。小谷野敦・細江光編『谷崎潤一郎対談集【藝能編】』(中央公論新社 2014年初版)に谷崎潤一郎&松子夫人と、浪花千栄子の東京虎の門某所での対談記録が収録されている。谷崎の天下一品の「通」ぶらなさなどを頭に入れてこの対談集を読まれたし、との編者小谷野敦氏の序言は興味深い。

 

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⃝出身は河内
谷崎:あなたは、お生まれは、どの辺ですか。
浪花:河内の金剛山のふもとでございまして。楠公さんの誕生地と峰伝い。一山向う側が楠公さんの土地です。だから私、本名は「ナンコウ」。みなみぐち(南口)と書きましてなんこうと読むんですが、だれもナンコウとはいうて下さりません。みなみぐちというて下さる。私、南口(なんこう)菊乃でございます。
夫人:まあ、本名が。(笑)
                             (p.570)
⃝お酒
谷崎:あなたは、お酒のほうは。
浪花:私、その、捨てられました主人は、あびるほうでございまして。さんざんあびられましてから、あまいとかからいとか文句申します。ですからこのお酒の吟味は私でございまして、文句いわれないように。で、ちょっとネブったらわかりますのにね、それでいただけません。いまだに。
谷崎:ほう。
浪花:この間、国税局のほうの、お酒のアレがございますね。キキ酒。大酒飲みの方とか、お酒の好きな、いろんな有名な方たちがきておられまして。その方たちが、なんにもお取りになりませんのに、私があたりまして、お酒のいただかん私がほうびを頂きました(笑)。それで、浪花はんは飲まん飲まんいうのに、大したものやないかというようなことで。(笑)
夫人:それではなかなかお酒のほうでは……。
浪花:はい、苦労さしていただきました。なにかと後日役にたちまして。(笑)
                              (p.571)