幽霊の季節

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(1964年11月都市センターホールにて、劇団俳優座公演、小沢栄太郎台本・演出、通し狂言東海道四谷怪談』。)

 昔、中野の新日本文学会事務局の2Fで運営されていた日本文学学校に夜間〈通学〉していたが、劇作家宮本研講師の演劇論・戯曲論の講義で、「大岡昇平の『ハムレット日記』は父王の幽霊の存在を否定しているからダメです。やはり舞台には幽霊が出てこないと……。」との趣旨の話があった。『ハムレット日記』(新潮社)ではたしかに父王の幽霊については、その出現を否定している。

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 しかし怪談はいつわりであろう。 彼等は自分が善意によって動いているか、私利を求める心によって動いているか、自分でも知らない。王子を欺くことすら、熱意によって正当化されると考える連中なのである。そしてもし彼等がたった今、私にそれを信じさせようとしたのと同じ熱意をもって、うわさを国民の間に振り撒くならば、危険は私に迫る。

 クローディアスは自己の利益に反して国民の支持を持つ人間を放っておくような男ではない。父王を襲ったと同じ不慮の死が、私を訪れるのは必定である。簒奪者は引き返すことができないから危険なのだ。

 しかし亡霊出現の噂が、私との関連において、軍人の間に存在する以上、私もまた引き返すことはできない。クローディアスの有罪は目下のところ私の憶測の域を出ないのであるが、私は是非それを立証せねばならぬ。証拠は必ず城内にあるはずだが、それを見つけるには、時間がかかる。時が到るまで、マーセラスとバナードーの口はふさいでおかねばならぬ。むろん彼等にその望む通り、亡霊の存在を信じ続けさせねばならぬけれど。

 

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