同人雑誌の現況ー『文藝年鑑』2016から


 6/30(木)発行の『文藝年鑑』2016、「概観二〇一五年」の「文学二〇一五」では、最初に、文藝評論家伊藤氏貴氏の「同人雑誌」概観がある。伊藤氏は、『文学が行きすぎた「個」の蛸壺で窒息死しないようにするためには、「同人」というありかたが今後ともつづいていくことが望ましいのではないだろうか』と問題提起し、「まだ商業誌が読者を置き去りにしてでも「個」をどこまでも追い求めるあまり前衛に走りがちであるのに対して、同人雑誌には、題材を比較的に身近なところにとり、日常的リアリズムで書かれる作品が多い」と指摘している。
 2015年同人雑誌発表の夥しい作品のなかから、限界集落の山林を舞台にしながらグローバリゼーションの荒波という普遍に通じる作品、考証のしっかりした本格的時代小説、大震災をモチーフとした空想小説、生老病死の問題を熊野の地を舞台に、過去と現在、現実と幻想を交錯させて捉えた私小説的作品、中学時代の同級生の男との不倫を題材とし、もう一人のワルの同級生を巻き込んでの「解消できない関係性のなかにずぶずぶとはまっていく」物語が展開、読者が引き込まれてしまう作品、不妊治療をめぐる感覚の男女差を追求した作品、幼児虐待に追い込まれそうな母親の苦悩を扱った作品、姉の介護の限界にぶつかり、施設に入れることになった弟のその前の最後の一日を描いた作品など、すぐれた創作(のおそらく一端)を紹介している。
……こうして同人雑誌の作品たちは、さまざまな角度からさまざまな方法で今のわれわれの現実を捉えている。創作である以上、他人のできないことを求めるのは必要条件ではあるが、それで他人から読まれなくなっては本末転倒だ。他人には書けないが他人に読まれる作品を目指して、同人雑誌の世界全体がこれからも長くつづくことを願う。……(p.18)