糖質オフかカロリーオフか


 糖尿病専門医の益子茂神保町代謝クリニック院長著『糖尿病が気になるひとの本』(ワニブックス)は、従来型のカロリーオフの立場に立ちながらも、糖質オフのとくに短期的な効果について正当な評価をしていて、素人が血糖コントロールをする上で有益な知識と情報を得られる。ダイエット効果について比較している。
……肥満のある人の場合、低炭水化物を選択した場合と低脂質を選択した場合でどちらのダイエット法がやせるのが早いかというと、低炭水化物ダイエットのほうがやせるスピードは早いことがわかっています。
 ダイエット開始から6ヵ月後は低炭水化物ダイエットのほうが有意に体重が減っているという報告も多数あります。
 しかし、1年後くらいからは、低炭水化物ダイエットと低脂質ダイエットの効果はほぼ互角となるとも報告されています。……(p.134)
 肥満とダイエットについてなぜ論じられているかといえば、「日本人の場合は、3kg減量するだけで目に見えてインスリンの感受性や血糖コントロールは改善」するから。しかし、炭水化物の割合を減らすと、相対的にたんぱく質と脂質の割合が増えるので、腎臓に負担がかかっている人の場合、多量のたんぱく質が腎臓の糸球体の網目を広げてしまい、「本来であれば糸球体を通過してはいけない物質も糸球体を通過しまうこと」を招いてしまうのである。
 炭水化物とは厳密には、糖質プラス食物繊維であるが、いちおう炭水化物=糖質として議論を進めて構わないようだ。食後の血糖値の上昇を左右するのは、炭水化物の「量」プラス「質」である。炭水化物(糖質)は、単糖類(ブドウ糖・果糖)、二糖類(ショ糖)、複合糖類(でんぷん)に分類できる。糖尿病の食事療法としては、「単糖類と二糖類を控えめに、複合糖類で糖質を摂取することが最適」とされるそうである。ブドウ糖は血糖値を上昇させやすく、果糖は血糖上昇はないが、組織タンパクとの結合率がブドウ糖の300倍で合併症を起こしやすい物質である。
 「糖質制限食」は、海外ではlow-carbohydrate diet(ローカーボダイエット・略称ローカーボ)と呼ぶ。2型糖尿病は、「インスリン分泌障害」と「インスリン抵抗性の増大」により慢性的に血糖が高くなる病気で、従来型のカロリーオフでは治療効果のあがらない患者が、「糖質制限」によって血糖値を下げていく治療法に飛びついているようだ。
……「肉を自由に食べてもよい」というのは、肉好きの人にはたまりませんが、それを肯定している米国の医療というものが、ついこのあいだまでは「肉食は悪、がんの最大のリスク」と目の敵にした時期があったわけですから、長期的大規模追跡調査によってさまざまな研究成果が報告され、医療的解決の道が確立されるまでは、慎重に対処するほうがよいと私は考えています。……(pp177~178)
「糖質好き」の日本人が、長く糖質制限に耐えられるかどうかも問題であろう。著者によれば、一般外来の患者で糖質制限では90%以上の脱落者が出るそうだ。著者の勧める「自分本位のイイとこ取り」に同感である。なお著者の益子茂医師は、糖尿病治療においては食事制限だけではなく、〈食事療法と運動療法〉の併用を説いている。運動といっても「毎日30〜60分程度のウォーキング」でよいとしているが、交通ー自然環境によってはこれだけでもなかなか容易くはあるまい。
 長尾クリニック院長の長尾和宏医師も著書『病気の9割は歩くだけで治る!』(山と渓谷社)で述べている。
……ただ、生活をつくるのは食だけではありません。食以上に大事なのが、やはり歩くということ。たいして体を動かさない毎日のまま、ただ「ご飯を減らせ」と言われても、かえって守れません。ちょっと考えてみてください。家でじーっとしているときほど、お腹がすいているわけでもないのに、ついつい食べ物に手が伸びてしまいませんか?……(p.21)
 こちらはいまのところ(2015年8月検査)、HbA1cが5.3(基準値4.6〜6.2)、空腹時血糖値が111(基準値70〜109)なので、糖尿病ではないが、空腹時血糖値を下げる必要がある。いわゆる「暁現象」かもしれないが、油断はできない。『週刊ポスト』2/5号記載の『最新「3年以内の糖尿病発症確率」チェックリスト』で、この数値を含めたデータを記入してみると、わが3年以内の糖尿病発症確率は、1〜2%なので安心。ときどきは「ショートケーキ食べてよし」の許可であろうか。
 http://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/14/093000039/011300092/?ST=bodycare&P=1
 (『山田悟:「ローファットよりロカボ」のエビデンス』)
 http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3692.html(「ドクター江部の糖尿病徒然日記:桐山秀樹さん、心筋梗塞で急逝」)
 http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-3691.html(「ドクター江部の糖尿病徒然日記:過去の高血糖期間の消えない借金と心筋梗塞」)
 http://majimaclinic22.webmedipr.jp/kanzenyobou/column2/29.html
  (『真島消化器クリニック:「糖質制限食」開始から3年2ケ月後に脳梗塞』)