奥田昌子『日本人の「体質」』(講談社)を読む


 奥田昌子医師の『日本人の「体質」』(講談社BLUE BACKS)は、病気になりやすい遺伝子への変異が生じても、「環境要因の影響を受けて遺伝子の作用が強まったり弱まったりする」現象=エピジェネティクスによって、遺伝子のスイッチがオンにならない限り病気にはならないとの知見を前提に、環境要因を変えることでの病気の予防および治療の可能性を解説している。納得すること多く、目から鱗が落ちるとはこのことか。人種・性別の違いを無視した、病気の予防・治療の提案にも注意すべきであることも具体的に説明していて、健康維持の実践面で参考となる。欧米人のみを被験者にした医療統計の〈エビデンス〉も、今後慎重に受けとりたいところである。
 例えば、日本人と欧米人の胃の形が違うそうで、日本人の胃は、「たいてい釣り針のように曲がった形をしています。縦に長いため逆流しにくく、出口が少し高い位置にあるので食物をしっかりためて消化できます」。これは炭水化物を中心に食べてきたことから、この形が適しているのだ。いっぽう肉食が中心の欧米人の胃は、「蛋白質と脂肪の消化はおもに小腸が舞台なので」「大量に胃液を出して胃での処理をすみやかに終えて、食物を腸に送り出す方が良い」ので、胃はすっきりした形であるとのこと。
 日本人男性の胃がんの原因の約6割は、ピロリ菌感染だが、3割は喫煙であるとのことで、喫煙者の場合、緑茶ポリフェノール胃がんの発症率を下げる効果がなくなるどころか逆効果になるらしい。日本人の胃は胃酸の分泌が少なく、肉を消化するのに時間がかかり、そのあいだずっと、胃の粘膜が、肉に含まれる蛋白質と他の食品に入っている硝酸塩が化学反応を起こして生じる発がん物質と接触することになり、胃がんを招く可能性も指摘されているとのこと。こちらは、ピロリ菌感染陰性でかつ非喫煙者であるが、これは注意したい。
 動脈硬化を予防するのに、EPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)の摂取がよいとは知っていたが、その体内でのメカニズムについて理解できたのも収穫であった。
……第3章(「糖尿病」)で見たように、EPADHAは、魚、とくにアジ、イワシ、サンマ、サバなどの背中の青い魚に豊富に含まれています。このうちEPA中性脂肪の合成をおさえ、その分解を促すことで体内の中性脂肪を減らします。また、冠動脈がふさがる原因になる血の固まりをできにくくする働きもあります。DHA中性脂肪だけでなく悪玉LDLも減らします。でも善玉HDLは減らしません。中性脂肪は悪玉LDLを小粒にして酸化されやすくしているので、こうして中性脂肪が減れば、動脈硬化が起きにくくなるわけです。……( p.123 )
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20160710/1468155886(「健診・検診の一年:2016年7/10 」)
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20170131/1485844343(「ピロリ菌のみなのか?:2017年1/31 」)