慢性疼痛について


 東大病院麻酔科・痛みセンター助教の笠原諭氏の『しつこい痛みは日記で治る』(廣済堂出版)は、健康書でありながら、文藝批評を読むような面白さがある。むろん健康法指南として、大いに学ぶことができる。
……腰、肩、ひざ、背中…、体のどこかが痛くてたまらない。
 あちこちの医療機関を訪ね、検査を受けてみても、原因がちっともわからない。
 こんな原因不明の長引く痛み(慢性疼痛)を抱えて悩んでいる人が、日本には約2300万人いるといわれています。……(p.3)
 この「慢性疼痛」は、「負の情動をともない快・不快や、喜怒哀楽といった心の働きと連動している」という認識を前提に、患者は「考え方(思考)のクセと、そこからはじまる痛み行動が、痛みを悪化させてしまっていることが非常に多い」ので、『知らず知らずに陥っている「ネガティブな考え方のクセ(認知のゆがみ)」に気づき、痛み行動を減らすことができれば、痛みから解放されることができる』としている。そのための実践法として、日記を書くことを勧めているのである。
 日記によって、自分の心の根っこにある「中核信念」を突きとめ、勇気をもって行動を縛っている自分の課したルールを壊して、人間関係を変えていけば、痛みが解消していくと説いている。臨床医としての治療の事例を示しながらの議論なので、説得力がある。「自分の言いたいことや感情を、隠してため込むのでもなく、気分のままに過激な態度でぶつけるのでもなく、相手の立場に配慮しながら、自分の気持ちをきちんと言葉で伝えること」、即ち「アサーティブ」な態度で人間関係を構築することが望ましいとしている。
……「痛くて何もできない」「痛いからできない」と言いますが、痛みがあっても、できることはあります。痛みを抱えていても、何かを楽しむこともできます。
 そうやって痛みとうまくつき合うことを考えるようになると、考え方のシフトとともに痛みも減っていくのです。……(p.163)
「時間をかけて悪くなってしまったものは、治療にある程度の時間は必要」と腹をくくって、やれ手術だ、やれブロック注射だ、やれ投薬治療だと、ドクターショッピングするのではなく、患者自身が「主体的に治していこうと考える必要」があるということなのである。
 http://news.infoseek.co.jp/article/postseven_311189(「腰痛は大きく分けて2種類 原因が特定できないものが8〜9割」)
  

⦅写真は、東京台東区下町民家の椿。小川匡夫氏(全日写連)撮影。コンパクトデジカメ使用。⦆