http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/229105.html(「視点・論点『高見順没後50年』:NHK解説委員室」)
http://www.bungakukan.or.jp/cat-exhibition/cat-exh_current/6465/
(「高見順という時代―没後50年―/川端康成と高見順:日本近代文学館」)
http://news.infoseek.co.jp/article/gendainet_288834/
(「波乱の人生も今や大臣妻 高見恭子がつかんだ理想の居場所」)
高見順の作品は過去、小説『いやな感じ』(文藝春秋新社)と詩集『死の淵より』(講談社)の2冊しか読んでいないので、論じる資格はないのだが、便乗で、ノート代わりにかつてわがHPに載せたreviewを再録し、この作家・詩人を偲びたい。
◆国際日本文化研究センター教授鈴木貞美氏の『戦後思想は日本を読みそこねてきた』(平凡社新書)は、新書ながら力作で、近代日本思想史の再構築を試みながら、大江健三郎・丸山真男・吉本隆明らに代表される戦後思想における日本文化理解を批判・克服しようとしている。思想史的・精神史的課題であるはずのものが、いわば構造的・共時的な病根の如く捉えられることについての批評といえるだろうか。NHKの3年がかりの大河ドラマ『坂の上の雲』も昨年末に第1部が放映され、近代史総体の見直しの気運も生まれてこようかというタイミングで、大いに勉強になる。
……本人が欧化主義に立つか、伝統主義に立つか、また東西融合論を唱えるかどうかとは別に、みな、西洋思想を手持ちの思想で受けとめ、また説明に用いたりして、独自の思想をつくったもので、それらが対立したり、受け継がれたりしてきたのである。
そして、そういう欧化主義にしても、伝統主義にしても、折衷や融合論にしても、その時どきの思想の流れと無縁に唱えられたわけではなかった。つまり、西洋ー対伝統ーという大きなふたつの流れがあって、それらが融合したり、分裂しあったりしてきたのではない。東西思想のふたつの流れが一体になって、その時どきにちがう顔を見せたというのでもない。……
日本神話から「生々発展的」な個性を指摘し、「なる」中心の日本文化論を主張した丸山真男については、「神話の編集の方法とその思想を」考えていないとし、また天皇制を支えた心性を「前近代的な共同体意識」としている点で、これを「恒常民」もしくは「庶民」に求める吉本隆明とともに、「二〇世紀の大衆社会が想定されていない」共通性があり、「大きな思想の変化を問題にしていない」と論評している。ここのところは、かつて学び思考の根のところまでしみ込んだ図式なので、少なからぬ衝撃を受けた。大正生命主義を語ったところでも、鈴木氏のスタンスは一貫している。
……それで、東洋哲学の様ざまな原理、中国の「気」や古代ギリシアやインドの哲学で呼気に由来する「プネウマ」なども、生命エネルギーで再解釈された。東洋の伝統思想が生命中心主義であるかのような説明も、この流れの中でつくられた。西洋思想のみならず自然科学とも伝統思想は融合した。だが、それには、それぞれの融合を起こすモメントと歴史的条件がかかわる。すなわち歴史性がある。それを無視して思想史は語れない。……
この大正生命主義のマイナス面をえぐった小説で、鈴木氏によれば昭和戦中期の傑作と評価されるのが、高見順の『いやな感じ』だというのは、あらためて知った。昔読んだことがある。(2009年1/6記)
『戦後思想は日本を読みそこねてきた』全5章中の第5章「戦後民主主義を超えて」の三「近代の総体を問う」のところで、「大正生命主義の末路」と題して高見順を取りあげている。
……大正生命主義のマイナス面を、見事にえぐって見せたのも、戦前から活躍しつづけた実作者だった。高見順の『いやな感じ』(1964)は、彼の代表作というだけでなく、昭和戦後期が生んだ傑作のひとつである。高見順は「『いやな感じ』を終って」(『文学界』1963年9月号)に、これは「私が生きてきた昭和という時代と、その時代を生きた人間を書きたいといふ私の願いのひとつの現はれである」と語っている。同じ願いを抱いた作家は少なからずいたが、大正末から昭和戦中期にかけての時代と人間をこれほどよく生け捕りにした作品はない。
物語は、大逆事件後のいわゆる「社会主義の冬の時代」に、生命感の充実を求めることこそが「自我の拡充」であり、一切の権力からの自由と解放の闘いの根本をなすという大杉栄のテーゼを信奉したひとりの男が激動の歴史に翻弄された軌跡を追う。生命の発露を求めるヤクザな隠語をまじえた饒舌体が、主人公の卑小さ、さもしさを、これでもかと示し、昭和前期の日本の現実、様ざまな政治運動の交錯も国際的視野に立って描かれる。……(pp.235~236)
詩集『死の淵より』の詩「帰る旅」から、第3聯・第4聯(pp.22~23)。
大地へ帰る死を悲しんではいけない
肉体とともに精神も
わが家へ帰れるのである
ともすれば悲しみがちだった精神も
おだやかに地下で眠れるのである
ときにセミの幼虫に眠りを破られても
地上のそのはかない生命を思えば許せるのである
古人は人生をうたかたのごとしと言った
川を行く舟が描く水脈(みお)を
人生と見た昔の歌人もいた
はかなさを彼らは悲しみながら
口に出して言う以上同時にそれを楽しんだに違いない
私もこういう詩を書いて
はかない旅を楽しみたいのである
- 作者: 鈴木貞美
- 出版社/メーカー: 平凡社
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