高見順『いやな感じ』復刊とのこと

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高見順『いやな感じ』文藝春秋新社、1964年第3版)

 国際日本文化研究センター教授鈴木貞美氏の『戦後思想は日本を読みそこねてきた』(平凡社新書)全5章中の第5章「戦後民主主義を超えて」の三「近代の総体を問う」のところで、「大正生命主義の末路」と題して高見順を取りあげている。
……大正生命主義のマイナス面を、見事にえぐって見せたのも、戦前から活躍しつづけた実作者だった。高見順の『いやな感じ』(1964)は、彼の代表作というだけでなく、昭和戦後期が生んだ傑作のひとつである。高見順は「『いやな感じ』を終って」(『文学界』1963年9月号)に、これは「私が生きてきた昭和という時代と、その時代を生きた人間を書きたいといふ私の願いのひとつの現はれである」と語っている。同じ願いを抱いた作家は少なからずいたが、大正末から昭和戦中期にかけての時代と人間をこれほどよく生け捕りにした作品はない。
 物語は、大逆事件後のいわゆる「社会主義の冬の時代」に、生命感の充実を求めることこそが「自我の拡充」であり、一切の権力からの自由と解放の闘いの根本をなすという大杉栄のテーゼを信奉したひとりの男が激動の歴史に翻弄された軌跡を追う。生命の発露を求めるヤクザな隠語をまじえた饒舌体が、主人公の卑小さ、さもしさを、これでもかと示し、昭和前期の日本の現実、様ざまな政治運動の交錯も国際的視野に立って描かれる。……(pp.235~236)

 いまのところ『いやな感じ』を再読するつもりはない。

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高見順詩集『死の淵より』講談社、1965年第4刷)

詩集『死の淵より』の詩「帰る旅」から、第3聯・第4聯(pp.22~23)。


大地へ帰る死を悲しんではいけない
肉体とともに精神も
わが家へ帰れるのである
ともすれば悲しみがちだった精神も
おだやかに地下で眠れるのである
ときにセミの幼虫に眠りを破られても
地上のそのはかない生命を思えば許せるのである


古人は人生をうたかたのごとしと言った
川を行く舟が描く水脈(みお)を
人生と見た昔の歌人もいた
はかなさを彼らは悲しみながら
口に出して言う以上同時にそれを楽しんだに違いない
私もこういう詩を書いて
はかない旅を楽しみたいのである