馬を使ってこそ

 宮崎正勝元北海道教育大学教授の『「空間」から読み解く世界史』(新潮選書)は、標題の通り、カール・シュミットの「空間革命」という語を構成概念として駆使し、人類史・世界史を解明している。ウマ(馬)を使うことがもたらした世界史的意義を、具体的に知ることができ、感動してしまう。
……『図説 馬と人の文化史』の著者クラットン=ブロックは、「十九世紀に蒸気機関が全盛になり、やがて機械力が馬力に交替しはじめるまで、人間社会における馬やロバの役割は拡大し、探求されつづけた。もし馬が存在しなかったならば、人間の歴史は、まったく異なっていたと言えるかもしれない。古代世界の大戦争は、単なる内輪の争いにすぎなかったであろうし、アレキサンダー大王は、アジア征服を実現できなかったであろう」と述べているが、その通りである。ムギが経済のシンボルであるように、ウマは軍事のシンボルなのである。……(p.32)
……前六世紀、スキタイ人は、ハミ、タヅナ、鞍、アブミなどの馬具を発達させて騎馬技術を体系化し、ウマの上で射る短弓と三つの翼のある鏃(やじり)を使う騎射技術を編み出した。弓は、二〇〇メートル位先のものをも射抜けた。騎馬技術の要になるタヅナは、ウマの前歯と奥歯の間の隙間を利用することで生み出された。歯の隙間に骨片(後に金属片)のハミをあてがってそれにタヅナをつけ、馬を自在に乗りこなしたのである。スキタイ人による、騎馬・騎射革命である。その結果、ウマの空間革命の推進役としての地位が不動になった。……(pp.54~55)
……前三世紀なかばに、アレクサンドロスの後継者(ディアドコイ)が支配していた西アジアには、遊牧ペルシア人が進出して帝国を再建した。それが、パルティアである。パルティアは正式にはアルサケス朝だが、西アジアでは「侵略勢力」として扱われ、出身地をとって、「パルティア」と呼ばれた。パルティアは典型的な遊牧帝国であり、ウマの蹄鉄を最初に作った国、パルティアン・ショットという巧みな騎射技術を持っていた国として知られている。……(pp.57~58)
 本日のテレビ東京ウイニング競馬』では、騎手のみが入る館内に、鷲見玲奈アナが戸崎騎手の案内で特別潜入、訓練用の木馬に跨がってなかなかの(?)騎乗ぶりを披露(録画放送)していた。




「空間」から読み解く世界史: 馬・航海・資本・電子 (新潮選書)

「空間」から読み解く世界史: 馬・航海・資本・電子 (新潮選書)

⦅写真は、東京台東区下町民家のカラー(オランダ海芋)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。コンパクトデジカメ使用。⦆