「to contend」と「Harb」

 2/1(日)夜9:00〜10:54にBS・TBS「週刊BS-TBS報道部」のトップストーリーで、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)の著者池内恵(さとし)東大准教授がゲストに登場、(死者への哀悼の意を表してから)「イスラーム国」の今回の行動について解説していた。推測ではあっても、たしかな資料の分析に基づいているもので、信頼性高く、議論の土台を設定していると言えるだろう。この分析は、より詳しく池内氏のブログに掲載されている。
 http://www.bs-tbs.co.jp/houdoubu/topstory/index.html(「週刊BS-TBS報道部2/1」)
 http://chutoislam.blog.fc2.com/blog-entry-270.html(「中東イスラーム学の風姿花伝2/3」
『安倍首相が1月17日のエジプトでの演説で提示した「イスラーム国」と戦う周辺諸国への経済援助をめぐる表現が、「非軍事的である」ことが明確だったか否か、という問題』をめぐって、日本のメディアで取り上げていない「イスラーム国」側の1/20の脅迫ビデオ「導入部」の分析をしている。まずNHKワールドニュースの安倍首相の中東訪問のニュース(英語)について、アラビア語の字幕がついて紹介。そして「BBCArabi(英BBCが放送するアラビア語国際放送)のウェブサイトの安倍エジプト訪問の記事が映し出される」。この記事タイトルに『「イスラーム国」が付けた英訳では、アラビア語原文に忠実に、あるいはむしろ若干BBCArabiよりも正確に、「Abe Pledges Support for the War against Islamic State with Non-Military Aid (安倍がイスラーム国との戦いに非軍事的支援を約束した)」』とあるそうである。はっきりと「Non-Military Aid (非軍事的援助)」と彼らは理解しているではないか。そのうえで「日本・日本人をジハードによる武力討伐の対象とした」のである。池内氏は、「そうであるがゆえに事態は深刻」と述べている。
 安倍演説で、支援する相手を「テロと戦っている周辺諸国」と表現したところが問題であるとの指摘・批判に関して、池内氏は、その英語訳を検討している。「戦っている」との日本語を、「fighting againstではなくcontending with という曖昧にぼかした英訳を付けて」外務省(あるいは担当者)は発表しているとのことである。この「to contend」を座右の辞書で引くと。
◯contend:(+with)〔困難などと〕闘う。…に対処する。(旺文社版『O-LEX英和辞典』)
      to struggle in order to overcome a rival, competitor or difficulty:(『OXFORD Advanced Learner's DICTIONARY』)
 なるほどこれであれば、トルコやレバノンなど、直接戦ってはいないが「イスラーム国」がもたらす困難(難民の流入など)と立ち向かっている国々も支援の対象となる。さらに、ロイターやBBC英語版では「タイトルではbattling withを使っている場合があり、対立図式を明瞭にして報じたきらいがあります。おそらくそういった英語版を踏まえたBBCArabiではさらに大げさにWarを意味するharbにしてしまっていて、そこからイスラーム国を刺激した可能性はあり得ると」思えるそうである。この「Harb」は、アラビア語の「Salaam(サラーム:平和)」の反対語で、「War」を意味するらしい。「きちんと訳している」外務省に責任を問うのは酷であろう。
 ともあれ英語・アラビア語に通じている専門家の分析を基に、議論・展望を展開してほしいものである。
 本日Facebook池内恵氏が投稿している。次のところには瞠目させられる。
……イギリスは敵なのですが、BBCは比較的中立であり、高度な報道をしていると認識しているから見る、あるいはBBCの影響力が甚大であると感じているからまずそこをチェックする。これはアラブ世界一般にそうです。なおイランでもそうです。「イギリスの植民地主義がー」と言ったその人が次の瞬間「どれどれBBCでは何をやってるの?」と熱心に見ている。ソフトパワーってそういうもんです。
 脅迫ビデオの作り方を見ても、犯行グループがまずBBCやロイターでの報道をチェックしてからNHKワールドを見に行ったことはほぼ確実であると思われる。一日中NHKワールドを見ているなんてことはあり得ない。日本政府のホームページもまず見ていない。彼らはそこまで日本に興味はない。……
 http://dametv2.cocolog-nifty.com/blog/2015/01/l-f122.html(「某TVコメンテーター」)





 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20150126/1422273777(「『イスラーム国の衝撃』を読む」)
 http://www.yomiuri.co.jp/feature/yokoku/20150203-OYT8T50221.html?page_no=3
  (「若者はなぜイスラム国を目指すのか…池内恵氏インタビュー」)