女庖丁人と幻の花魁:北川景子と貫地谷しほり

 6/8(日)テレビ朝日放送の時代劇『みをつくし料理帖』は、NHKBS時代劇『妻は、くノ一〜最終章〜』と比べても遜色ないキャスティングで、民放の単発ドラマとしてはめずらしく最後まで面白く観ることになった。江戸料理屋つる家の女庖丁人澪(北川景子)の腕の冴えと料理のアイデア、幼なじみでいまは吉原の幻の花魁あさひ太夫の身となっている野江(貫地谷しほり)との友情、澪のレシピを盗んで繁盛する料理屋登龍楼主人(宅間孝行)との確執を柱とする物語展開に、正体を隠す将軍付御膳奉行小松原(松岡昌宏)、〈グルメ評論家〉の清右衛門(片岡鶴太郎)などが絡み、昼間の「安田記念」で、3連複の3着候補としてブービー人気のグランプリボス(矢作厩舎:2着)を押えながらも、連軸の一頭9番人気ダノンシャークが、10番人気3着ショウナンマイティのクビ差4着の結果で、これが3着であればおそらく配当91,160円に近い額だったはずで、HKT48・さしこ並みの口惜しさであったところを、それも忘れる愉しい時間が過ごせたのであった。





 北川景子さんと現実にも親友であるらしい貫地谷しほりさんは、6/26(木)〜放送開始のNHK時代劇『吉原裏同心』で主演を演じるとのこと、愉しみである。
 http://www.nhk.or.jp/jidaigeki/yoshiwara/(「NHK吉原裏同心』」)
 物語のなかで、澪が鱧(ハモ)をみごとに捌いて、翁屋楼主(本田博太郎)がその腕を認めることになるクライマックスの場面があったが、この鱧は身のなかに小骨多く食材とするにはむずかしい魚とのことある。(夏、京都のホテルで食したことはある。)
 http://souda-kyoto.jp/knowledge/culture/hamo.html(「京の夏の味、鱧の秘密」)
 石毛直道『食の文化誌』(文藝春秋)によれば、料理の「道」としてのいわば「庖丁道」は、すでに平安時代あたりからみられ、「宴会のとき主人が儀式的な庖丁術を披露することが、客のもてなしの演出とされた」のであり、『徒然草』で「そうなき庖丁者なり」と評された園別当入道は、料理ずきの貴族であったことになる。『徒然草』第231段にある。
……園の別當入道は、さうなき(※並ぶものがない)庖丁者(ほうちょうじゃ)なり。ある人のもとにて、いみじき(※すてきな)鯉を出だしたりければ、皆人、別當入道の庖丁を見ばやと思へども、たやすくうち出でんもいかがと(※心安げにお願いするのもどうかと)ためらひけるを、別當入道さる人(※ぬからない人)にて、「この程百日の鯉をきり侍るを、今日缺(か)き侍るべきにあらず。枉(ま)げて(※ぜひ)申し請けん(その鯉をいただきましょう)」とて、きられける、いみじくつきづきしく(※その場ににつかわしく)、興ありて人ども思へりけると、或人、北山太政入道殿にかたり申さりたりければ、「かやうの事、己はよにうるさく(※非常にわずらわしく)覺ゆるなり。「切りぬべき人なくは、給べ(※切るに適当な人がないなら下さい)。切らん」と言ひたらんは、なほよかりなん。何條(なじょう)、百日の鯉を切らんぞ(※なんだって百日の鯉を切ろうというのか)」とのたまひたりし、をかしく覺えしと人の語り給ひける、いとをかし。……(岩波「日本古典文學大系30」『徒然草』西尾實校注pp.274~275)
 http://www.suntory.co.jp/sma/exhibit/2014_3/index.html(「サントリー美術館徒然草展』」)
 同書によれば、専門職として公家や武家に仕える庖丁人(料理人)が定着し、家元制度の下で各流派の庖丁術が伝承され、江戸時代後期になると、「町での料理屋を職場とするようになる」のである。ドラマの澪のような女料理人が存在したのかどうかは、調べてみないとわからない。 
(「東京新聞」6/7 )