闖入者はカネタタキ

 昨日夜更け下の居間で本を読んでいると、チッチッチと虫の鳴き声が聞こえた。見当をつけて待っていると、小さな褐色の虫が一匹、かなりなスピードで移動、座布団の下に潜り込んだかと思えば、サイドボードの下の隙間に積んである大判の本の裏に隠れてしまった。この鳴き声は聞き覚えがある。秋になると、庭のミカンの木でよく聞かされる声である。さっそく調べて、カネタタキと判明。こちらは昆虫でも直翅目のものは疎いのである。


 (画像は、http://homepage3.nifty.com/a-hiropy/kanetataki.htm
http://www.google.co.jp/search?client=safari&rls=en&q=枕草子+原文&ie=UTF-8&oe=UTF-8&gws_rd=cr&ei=gDgkUpufLIvKkwWql4HoC
 荒俣宏著『世界大博物図鑑〔虫類〕』(平凡社)に、清少納言枕草子』では、(古代人共通の錯覚で)鳴き声の主をミノムシと間違えているとある。『枕草子』五十段に、
……蓑蟲いとあはれなり。鬼の生みければ、親に似て、これもおそろしき心地ぞあらんとて、親のあしき衣ひき著せて、「今秋風吹かんをりにぞこんずる、侍てよ」といひて逃げていにけるも知らず、風の音聞き知りて、八月ばかりになれば、ちちよちちよとはかなげに鳴く、いみじくあはれなり。…… 
 また内田百けんの「むしのこゑごゑ」のカネタタキ評も紹介している。
……家にいてそのちんちんちんと云う声に耳を澄まし出すと、暫らくは何も考えられなくなる。一しきり鳴いては一寸間を置いて又鳴くと云う風なので、ついその次を待つ気になり、急ぎの仕事もその為に頓挫し、どうかするとその儘気が抜けてしまうと云う事もある。……
 庭に逃がしてやりたいのだが、食料もない居間が気に入っているのか居着いてしまっている。