鉄道のたしかさ・女の不可解さ:『僕達急行 A列車で行こう』

 7/31(水)WOWOWで、森田芳光監督の映画『僕達急行 A列車で行こう』を放映していた。この監督の作品を見るのははじめてである。競馬番組でゲストで出演したとき、その予想の的確さに感心することが多かった。高く評価されている作品のことなど知ってはいたが、観る機会がなかった。キャスティングが好ましいのでこの作品はぜひ観たいと思っていた。
 鉄道に乗って車窓を流れる風景を眺めながら音楽を聴くのを至上の楽しみとする、不動産会社のサラリーマン 小町圭=松山ケンイチと、町の小さな鉄工所社長の息子で、鉄道車両をこよなく愛する技術者の小玉健太=瑛太の二人の友情を軸に、恋人=貫地谷しほり、小町を「少し好き」とする社長秘書=村川絵梨、見合いの相手の女性=松平千里、同じく鉄道マニアの九州大手企業の社長=ピエール瀧などが絡んで、味のある映画となっている。面白かった。
 小町圭のいちおうの恋人である眼鏡店勤務の相馬あずさは、スナックのカウンターで、小町に向かって鞄から次々にメガネを取り出し掛けてみる。この場面は楽しい。この女性のマイペースぶりがよく出ている。わざわざ小町に会いに行った九州のある駅のホームで、「私が好きならキスをして」と小町に迫り、小町が唇を合わせようとする瞬間近くを列車が通り不発に終わってしまう。この体験で相馬あずさは、小町を棄てて外国人の男性との結婚を決意してしまうことになる。いっぽう、小玉健太も、初デートですっかり気に入った大空あやめに交際を断られてしまう。かつて年上の愛人と交際していた自分には、小玉はいいひと過ぎて自分の良心が許さないからだと理由を告げる。あとで、福岡で会いたいと電話を入れてくるので、この理由はほんとうらしい。二人は、女の恋の駆け引きと入り組んだ心理に翻弄される。女は魔物なのだ。やはり、確実にどこかの駅まで運んでくれる鉄道のほうが安心して親しめるのだ。傷を列車の旅が癒してくれる。
 たまたま出会った九州の大手企業の社長も、順調な経営活動の裏で孤独を抱えていて、飛行機での旅より列車の旅を好み、とくにHOゲージ(縮尺1/87・軌間16.5mm)の鉄道模型でそれを忘れようとしていた。この共通の趣味のおかげで、小町は工場立地の確約を社長から引き出すことに成功したのだった。このあたりは出来過ぎであるが、コメディータッチなので気にすることもあるまい。愉快な展開である。また、買収したい土地の地主=伊武雅刀が、スペインサッカークラブのユニホームを着て、毎日ジョッキングをしていた。小町は渋る地主をなんとか説得しようと一緒に走りつづけ、ついに信頼を勝ち取り、OKサインが出る。この地主がじつは瑛太の見合いの相手あやめの祖父だったというのは、おまけのようなエピソード。ジョッギングのシーンはとぼけた味が感じられて、監督の悪戯心が見え隠れする。
 RIP SLYMEの主題歌「RIDE ON」もすてきである。
 昨年12月新幹線利用で九州福岡を旅したことが思い起こされた。
 http://boku9.jp/index.html(「『僕達急行 A列車で行こう』公式HP」)



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