火の中に音がある:『アンダルシアの虹』

 昨日8/4(日)は、NHKアーカイブス(桜井洋子キャスター)で『アンダルシアの虹』を放送した。佐々木昭一郎演出、中尾幸世(栄子)主演の、『四季〜ユートピアノ〜』に続いた『川』3部作の第2作「スペイン編」である。
 http://www.nhk.or.jp/archives/nhk-archives/past/2013/130804.html(「NHKアーカイブス『アンダルシアの虹』」)
 栄子の清々しい微笑みと、遠くを見つめるような眼差しに再び出会えて悦ばしかった。音を探してアンダルシア地方の川のほとりの町を訪れた栄子は、鋳掛け職人のロマ(ジプシー)と、ギター作りの職人と巡り会う。鋳掛け職人は、栄子に音叉を作ってくれて漂泊の旅に出てしまう。「火の中に音がある」と手紙を残していた。栄子が灰の中から出来上がったばかりの音叉を取り出す。手紙には「籠の鳥たちを自由にしてやってくれ」とも書いてあった。川原で捕まえた鳥たちだ。「私はここを去るだろう。鳥たちは残り歌うだろう」と、栄子は呟く。詩情溢れる場面であった。
 ギター作りの職人の親方は、栄子が上手に仕事を進めるたびに赤いカーネーションの花を1輪ずつ瓶に挿していった。ここも味わい深かった。鋳掛け屋の長女は離れた町でフラメンコダンサーの修行に勤しんでいた。彼女と会う前に、フラメンコのレッスンを受ける。果実をもぐ動作で踊ればいいのと教えられて、栄子の身体が反応した。すてきであった。パンや鳥笛を売る栄子の声も弾んでいた。この音もいい。人間の声と自然の音とが渾然一体となっている。あくまでも栄子はピアノ調律師として、音叉のA(A4)音を基準にそれらの音たちに耳を澄ますのである。
 ゲスト解説の映画評論家佐藤忠男氏が述べるように、ドラマでもドキュメンタリーでもない、しかしドキュメンタリー風のドラマとして創られていて、ポエジーがある作品となっている。