独裁国家における「Z」:映画(架空国家)と現実(ロシア)

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 ジュゼッペ・トルナトーレ監督『ニュー・シネマ・パラダイス』での主人公サルヴァトーレ役。青年時代の恋人だったエレナと成功した映画監督として故郷シチリアで偶然再会、人妻となっていたエレナといっときだけの情交を結んで別れる切ない物語。このエレナ役を演じたのが、ルネ・クレマン監督『禁じられた遊び』の少女だったブリジッド・フォッセー。忘れがたい作品であるが、俳優にして映画製作者ジャック・ペランの映画作品では、コスタ・ガブラス監督の『Z』が注目される。

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 地中海に面したある(架空の)国家、独裁軍事国家で市民による反対運動が勢いを増していた。そのリーダーのZ氏(イヴ・モンタン)が市民集会で演説して会場の外に出た時に、トラックの暴漢に襲撃され瀕死の重傷を負い、病院に運ばれるが死亡。警察&憲兵隊は交通事故死としてこれを処理する。それに対して目撃者を探して、予審判事(ジャン=ルイ・トランティニャン)と新聞記者(ジャック・ペラン)が真相究明に奮闘。しかし証人はことごとく暴漢に襲われるか行方不明となって、事件は曖昧のまま幕が下ろされてしまい、その混乱を利用して権力がさらに増大強化されてしまう。「Z」は古代ギリシアでは「ZEI」(の頭文字)=「彼はまだ生きている」の意味で、人を殺しても思想は破壊されない、ということ。映画の題材となったのは、1963年5月独裁政権が支配するギリシアギリシャ)で起こったラムブラキズ事件。軍事化に反対する民衆のリーダーであったアテネ大学教授グレゴリオス・ラムブラキズが、演説後会場の外で暴走車に襲われ殺された事件。葬儀に30万人の市民が集まり、街のいたるところにペンキで「Z」の文字が書かれたという。抵抗の「Z」であった。
 この映画は資金難のなか制作されたもので、ジャック・ペランが資金集めに奔走し、豪華な出演陣も(収益が出ない場合は)ノー・ギャラの条件で出演を引き受けて製作されている。1970年度アカデミー賞外国映画賞・1969年度カンヌ映画祭審査員特別賞を受賞し、日本では、大阪万博のオープニングを飾り、場内が昂奮の坩堝と化したと伝えられる。

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