ヒュッレム寵妃(『オスマン帝国外伝』)とサーセイ王妃(後女王:『GOT』)

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 Hulu配信トルコの大河ドラマオスマン帝国外伝〜愛と欲望のハレム』シーズン4・第26話は、ヒュッレム寵妃の一面を描いて出色のエピソードとなった。オスマン帝国第10代スルタン(皇帝)スレイマンの寵愛をいいことに、実子を次の皇帝の位につかせるために皇妃マヒデブランの子ムスタファを支持する一派をことごとく死に至らしめてきた大悪女ヒュッレム寵妃が、自分の指示で殺させた敵側の間諜の女を生まれて初めて真実に愛してしまい、女の死後生きる気力を失ってしまった後宮宦官長スンビュルにその職を解き、自由の身にしてあげる。ヒュッレムは、スンビュルに一つの土地の所有権も与え生活を保障する。別れの挨拶に来たスンビュルに、ヒュッレム寵妃はこれまでの自らへの忠誠と〈功績〉に感謝の感情を示して送り出す。皇女のミフリマーフも別れの寂しさをスンビュルに伝える。前にヒュッレムは、スレイマンに「悪の中に善があり、善の中に悪がある」と宗教的な寓話を語ったが、この場面と繋がっている。ヒュッレムは、スレイマンへの愛が真実深かったためにスンビュルの絶望とむなしさがよく理解できたのである。ドラマはヒュッレム寵妃をただの悪女としてのみ捉えていない。
 その敵であるスレイマンの妹の皇女ファトマも善玉とばかりもいえず、一度別れたはずの再婚話に有頂天となる非モテ男の元夫を巧みに殺しているではないか。もっとも個人的には皇女ファトマがわが推しメンではあるのだが。
 この第26話では、皇子ムスタファの処遇をめぐってマニサの森を迷い歩くスレイマンの耳元に、処刑したかつての友であり忠実な臣下であった大宰相イブラヒムの声が聞こえる。「人間の心には、天使と悪魔が同居し、天国と地獄がともに存在している」と。この大河ドラマ通奏低音なのか。
 9/5はスレイマン1世の命日(1566年9/5没)にあたる。徳川将軍の御庭番のような私的情報組織をもっていなかったのだろうか。あまりにもヒュッレム・リュステム側の情報にばかり振り回されすぎて、不思議である。むろん〈史的〉スレイマンはもっと多角的に事態を捉えていたかと思うのだが。「史実に基づいたフィクション」であるから、それでよいのだろう。

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 さて大河ファンタジー史劇とでも言うべき『ゲーム・オブ・スローンズ(GOT)』にも、稀代の悪女が登場している。七王国の王ロバート・バラシオンの王妃サーセイ・バラシオン(夫を暗殺して後に女王サーセイ・ラニスター)は、冷酷に敵を殲滅する。ただ弱点があって、弟のジェイミー・ラニスターと近親相姦の関係にある。
   シーズン6では、女王自身が政教連携を認めたハイスパローというカルト教団によって、サーセイ女王は贖罪を迫られ、ベイラー大聖堂の階段を信者らの罵声を浴びながら全裸で降りて城門まで歩かされる。このシーンは衝撃的である。演じた女優はレナ・ヘディ。この後で、サーセイは大聖堂もろともこの教団を爆破、殲滅し復讐を遂げるのである。結末で愛に殉じて、ジェイミーと一緒に死ぬのであるが、『オスマン帝国外伝』のヒュッレム寵妃ほどの多面性はない。文字通りの悪女であった。

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f:id:simmel20:20200908183839p:plain(「CERSEI SHAME!」)

 当初予定されたキャスティングでは、サーセイ・ラニスター役は、オランダの女優カリス・ファン・ハウテンが演じるはずであったが、スケジュールの都合で変わったとのこと。『ブラックブック』のカリス・ファン・ハウテンはよかったので、この女優のサーセイも観たかった。

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