波 雨宮テイコ
あなたは青春の日に 小さな苦悩を一つくれた
時の流れがそれを洗って 青い一個の壺に染めた
壺の中の青い水は波打つ海となった
響きやまない海
ときには嵐となって猛り 存在の底をゆるがす海
おだやかな夜には 胸に北斗を浮かべてうたう海
わたしは波の形を一つ一つ刻んだ
煌めく光の七つの色 崩れる星の滝の音
霧に沈んだ船の呻き 白刃に溺れる鳥の声を
海は今日も新しく姿を変える
目には数えきれない青のかげりと 砕ける踊り子の泡の足で
耳には水と砂の渦巻く調べで
……『薔薇』(詩と詩論誌)7号・1984年4月