12/15(日)NHK・Eテレの『日曜美術館』では、写真家奈良原一高を特集していた。「奈良原一高の写真は、詩です」とのだれだったかの言葉に始まり、表現活動の軌跡を追っていた。わが所蔵の写真集は、『ジャパネスク(JAPANESQUE)』(毎日新聞社 1970年2月)一冊のみ。造本=田中一光、編集=山岸章二で、「富士」「刀」「能」「禪」「色」「角力」「連」「封」の八つの日本の伝統文化とされている事象ごとに作品が収められている。
だが多くの場合、奈良原氏の強いカメラは、対象の存在感を解体するところまで行ってしまう。作者が堅固な充実感を求めれば求めるほど、日本の風物はかえって、日常の現実のなかでは思いもよらない悲しげな相貌を剥き出しにすることがある。にもかかわらず、奈良原氏はそれを知りながら少しも追求の手をゆるめようとはしない。「花魁」の連作などはその極端な場合であって、氏はついに、ひとつの事実が現に存在しないことの存在感を求めている。モデルになった気の毒なヌードは、今日「花魁」というものが、伝説のなかですら偽物の夢と化した、そのむなしさの実体化なのである。 山崎正和「若い日本人の心」