デュッセルドルフ劇場公演『賢者ナータン』(1984年)



 レッシング(Lessing)作の『賢者ナータン(Nathan der Weise)』の舞台は、1984年6月デュッセルドルフ劇場の来日公演で日生劇場で観ている。演出は、フォルカー・ヘッセ(Volker Hesse)。上演台本の翻訳は岩渕達治で、イヤホーン利用による声優(男性2人、女性2人)の声で台詞を理解した。当時は、イスラームイスラム教)を回教と訳していて、ナータンに借金を頼むザラディン(Saladin)は回教君主という呼称になっていた。
 http://miuse.mie-u.ac.jp/bitstream/10076/6301/1/AN100450900060007.PDF
 (『「賢者ナータン」の三つの指輪の話に表われたレッシングの思想(その一)』)
 http://www.crc.mie-u.ac.jp/seeds/pdf/20091222-105432_gai9.pdf
 (『「賢者ナータン」の三つの指輪の話に表われたレッシングの思想(その二)』)
 浜川祥枝(さかえ)当時成城大学教授(現東京大学名誉教授)は、「三つの指輪のたとえ」について公演パンフレットに書いている。
……かくして、このドラマの中でいちばん有名な、第3幕第5場以下の場面が展開される。この時ナータンが用いた「三つの指輪のたとえ」は、レッシングの創作ではなく、中世後期いらい連綿とつづいて来たヨーロッパの文学的伝統にもとづいており、13世紀末にはすでに最初の言及が見られるというが、レッシングの直接の典據は、ボッカチオの『デカメロン』の初日の第3話である。ただし、そこでは、ユダヤ人豪商の名前はメルキセデックとなっており、「ナータン」の名は、同じく『デカメロン』の10日目の第3話に出てくる「ナタン」から取ったものである。なおこの名前は、ヘブライ語から来ており、「ヨナタン」ないしは「ナタナエル」がつづまったもので、「神あたえ給えり」もしくは「神の贈り物」の意味だという。……