末木利文さんを悼む

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 末木利文演出の舞台といえば、1988年11月銀座セゾン劇場で観た、山崎正和作『世阿彌』が記憶に残っている。かつてNHK・BSで、たしかシリーズ戦後の名舞台の一つとしてこの舞台の撮影映像を放送したことがあり、ビデオ録画しておいた。いつか探して再生し昔の感動を思い起こしてみたい。なお世阿彌を演じた松本幸四郎は、新春歌舞伎座での高麗屋三代襲名披露興行で、いよいよ二代目松本白鸚を襲名するとのこと。あらためて時の推移を感じたことである。
 「高麗屋三代襲名披露祝賀会」で三人が語った襲名への思い | 歌舞伎美人(かぶきびと)




『世阿彌』の作者山崎正和氏は、その著『文明としての教育』(新潮新書2007年刊)で、国語教育において朗誦して本を読む訓練が欠けていることを指摘し、「この基本的な表現の方法を教えず、ただ闇雲に思ったことを何でも書きなさい、という現代の作文教育には大きな欠点があるというほかはありません」としている。
……そのうえでさらに必要なことは、書き言葉にもとづいた話し言葉の教育です。書き言葉がきちんとしていないかぎり、まともな話し言葉ができるわけはありません。そして、書き言葉に活きた流暢さを与え、逆に話し言葉に規律を与えるためにも、私は名文の朗読と暗誦が不可欠だと考えるのです。
 問題を象徴しているのは、現代の国語教科書にはほとんどまったく戯曲が載っていないことです。戯曲こそ、作家が推敲を重ねた書き言葉であり、同時に役者が身につける話し言葉なのですが、この重要な接点が、国語教科書にも教科書会社にも完全に忘れられているのが、現実なのです。……( pp.160〜161 )