『親指のマリア』のシチリア料理


 秦恒平『親指のマリア』(筑摩書房)の第1章にあたる「聖母の章」に、シチリア料理についての記述がある。1708年10月、シドッチ神父が乗ったトゥリニダード号がマニラを出発してからいよいよ日本の屋久島あたりの海に辿り着いたとき、彼は、生まれ故郷のシチーリア島での生活を追憶する。生まれ育った「コンカ・ドーロ(黄金の窪地)」にあるパレルモの地のこと、赴いた列柱遺跡のあるセジェスタ、そしてトラーパニの港のことなどを思い浮かべる。すでに宣教師としての上陸の覚悟と決断はできているのである。
 トラーパニで食べた料理の思い出のところは、興味深かった。
◆トラパーニの港では、ナスやイワシのパスタに飽くとクロマグロの料理を食べた。魚のあらを玉葱、セロリ、トマト、ケーパーと煮込んだソースのなかで、大きな切り身がこってりと柔らかかった。セコンド・ピアット(二皿目)に仔牛のカツレツがまたご馳走だった……。
 そうだった…母は(と、彼は思い出していた)仔山羊とジャガイモの煮込み料理が好きで、上手だった。父と兄はオリーブ油の香ばしい網焼きしたカジキマグロが、妹は色々に美しく果物の形につくった菓子が好きだった。降誕祭と復活祭には、アーティーチョークを叩いて、塩をふりこみ炭火で焼いたのを必ず食べた……。
 おぉ神よ、この未熟な魂をお許しください。彼は膝を甲板に激しく折って、拳で額を打った。◆(p.59)
 シチリア料理には、いまもメカジキ(カジキマグロ)が多いらしい。
 http://www.kijikiji.com/gourmet/delicious/sword.htm(「旅グルメ:カジキマグロのステーキ」)
 http://caper.spice-file.info/(「ケーパー」)
 http://www.yasaiyasai.com/name/a/artichoke/(「野菜果物辞典:アーティーチョーク」)
 今夜は、シチリアワインのシビリア・ロッソを呑んで、メカジキの料理を食べてみよう。