サン=サーンス作曲『サムソンとデリラ(Samson et Dalila)』鑑賞

 昨日2/20(土)、東京池袋の東京芸術劇場コンサートホールにて、サン=サーンス(Camille Saint Saëns)作曲『サムソンとデリラ』全曲・(仏語)演奏会形式公演を鑑賞。全曲公演は、日本では初めてであるそうだが、感動した。パンフレットの岸純信氏解説によれば、この作品の筋立てを考えたのはサン=サーンスだが、オペラ台詞(リブレット:libretto )を書いたのは、妻の親戚筋のフェルディナン・ルメールで、旧約聖書士師記の物語を題材にしながら、オラトリオではなくオペラとするよう、サン=サーンスに提言したとのこと。なるほど、第1幕でヘブライ人たちの祈りの合唱(武蔵野音楽大学)が始まり、「オラトリオ色が強いひとこま」を感じさせるところがあった。管弦楽は、ザ・オペラ・バンド、指揮は佐藤正浩。不安と予兆の第1幕、危険な展開の第2幕、激しいうねりと破壊的な結末の第3幕と、序・破・急のみごとな演奏、前から3列目のC席で、左耳の難聴と耳鳴りに参りながらも最後まで乗せられてしまった。
 サムソン(テノール)がロザリオ・ラ・スピナ(Rosario La Spina)、「オーストラリアのパヴァロッティ」と渾名されると言われるとのこと。天にも届く美しい声で、酔わされる。デリラ(メゾソプラノ)がミリヤーナ・ニコリッチ(Milijana Nicolic)、いかにも妖艶な容姿で、旧約のハニートラップ(Honey Trap)デリダ役にピッタリか。声にも甘さと力強さがある。「春来たりなば」のソロには、いまの季節ということもあり、魅惑されてしまう。ペリシテの神ダゴンの大祭司(バリトン)が甲斐栄次郎で、憎々しさがその素晴らしい歌声に漂い、東洋の神仏習合の徒の身でありながら敵視してしまうのであった。

 http://ebravo.jp/archives/23692(「WEBぶらあぼ東京芸術劇場コンサートオペラ『サムソンとデリラ』」)

 演奏会形式ではあっても、大団円の神殿崩壊の場面は、照明操作を駆使した迫力のあるものであった。昔聴いた若杉弘指揮の訳詞上演『劇的オラトリオ:火刑台上のジャンヌ・ダルク』(1996年・於日生劇場)を思い出す。ジャンヌ・ダルク=タマリ,マリアム、聖母マリア=佐藤しのぶ、マルグリット=悦田比呂子、ドミニク=高橋大海というcastingで、合唱は二期会合唱団ほか、演奏は新星日本交響楽団。バックスクリーンに炎が舞い上がる映像が映され、演奏とともに感動的な幕切れであった。
(Milijana Nikolic)