ピエール・オーディ演出、大野和士指揮の『シモン・ボッカネグラ』(11/21 新国立劇場オペラパレス)は今年最高の観劇

ジュゼッペ・ヴェルディの作曲で、原作はスペインの劇作家アントニオ・ガルシア=グティエレス。戯曲題名は『シモン・ボカネグラ(Bocanegra)』で、c が一つ。
 第2幕のロベルト・フロンターリ(シモン:バリトン)、イリーナ・ルング(アメーリア実はシモンの実の娘マリア・ボッカネグラ:ソプラノ)、ルチアーノ・ガンチ(ガブリエーレ:テノール)の三重唱は哀しみと後悔と安堵と愛とが絡み合って、感動的な歌唱であった。音楽(大野和士指揮・東京フィルハーモニー交響楽団)も過不足なく寄り添うように演奏され心に染みとおった。
 第3幕海辺の場では、アメーリア=マリア・ボッカネグラの祖父ヤコブ・フィエスコ(リッカルド・ザネッラート:バス)が現われ、毒を飲まされて死が迫ったシモン・ボッカネグラと第1幕での対立から、和解の二重唱、ここも重く心が揺さぶられる。
 美術・装置で印象的だったのが、吊るされた逆さの火口のような黒い岩塊、絶えず噴煙を噴き出している。愛と憎悪の情念を秘めた人間の心の深層でもあり、権力闘争を繰り返す人間世界を危うくさせている基底の〈マグマ〉でもあるのか、暗示するところは面白い。