夏の特別ゼミ:cicadaとlocust


 このLOCUSTは、イナゴ、飛蝗(ひこう:トノサマバッタなど)を指している。『GENUS・2E』英和辞典(大修館書店)によれば、1:イナゴ、バッタ 2&4:略 3:⦅米⦆〔虫〕セミ(cicada)とあり、『OLEX・2E』英和辞典(旺文社)では、1:〖虫〗イナゴ、バッタ、飛蝗⦅特に大群で農作物を食い尽くす飛ぶ力の強いもの⦆、2:⦅米⦆〖虫〗ジュウシチネンゼミ(17年蝉);(一般に)セミ(cicada)、3&4:略、としている。
 http://scarlablack.hubpages.com/hub/The-Differences-Between-Cicadas-and-Locusts
 (「The Differences Between Cicadas and Locusts」)
 http://web.extension.illinois.edu/cicadas/13or17year.html
 (「13 or 17 Year "Locust"?:Cicadas in Illinois」)
 イナゴ、バッタとセミでは混同するはずもないが、どうなっているのか。さっそく座右の荒俣宏著『世界大博物図鑑1・蟲類』(平凡社)の「セミ」のところを開けると、
……英名ロウカストは、本来バッタやイナゴを指す名称で、アメリカでのみセミの意味でも用いられる。これは、18世紀、イギリスからやって来た開拓民が、樹上から聞こえるセミの鳴き声をバッタのものだと思いこんだことによるらしい。とういうのもイギリスには、セミ類はチッチゼミの1種Melampsalta montanaがイングランド南部の国立公園ニュー・フォレストにごく少数生息するだけで、一般にはセミの存在すら知られていなかったのである。もっともバッタとセミの鳴き声のちがいに頓着しなかったというのは、イギリス人の昆虫に対する無関心ぶりをよくあらわす逸話だ。……(p.242)
 http://homepage2.nifty.com/saisho/zukan/chicchi/index.html(「チッチゼミ」)
 https://richardreader.wordpress.com/2010/07/01/day-182-3652010-cicada-melampsalta-montana/
  ( Cicada :Melampsalta montana )

 アリストテレスの『動物誌』のセミの記述(第5巻・第三十章)によれば、
……セミには二種類あって、一つは小さく、最初に現われて最後に死ぬ方であり、もう一つは大きく、歌うセミで、後で現われて先に死ぬ方である。小さい方でも大きい方でも同様に、そのうちの或るものは下帯(胸腹間のくびれ)の下に裂け目があり、これが歌うセミであるが、或るものは裂け目がなくて、歌わぬ方である。大きくて歌うのを「ナキゼミ」、小さいのを「コゼミ」というが、コゼミでも裂け目のあるものなら少しは歌う。木のない所にセミはいない。……(岩波『アリストテレス全集7・動物誌上』島崎三郎訳:p.171)
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20130917/1379402879(『アリストテレスの「台風」:2013年9/17』)
『OLEX』英和辞典に記載の「17年蝉(seventeen-year locust)」とは、アメリカの東部・南部に17年周期で大量発生する、いわゆるMagicicada=周期ゼミ(素数ゼミ)のことだ。周期が13年の13年ゼミもいる。吉村仁静岡大学教授の『素数ゼミの謎』(文藝春秋)が面白く、その謎が解明されている。 

 古生代石炭紀(3.6億万年前)に登場したセミは、何度かの氷河時代を生き延び、新生代第4紀更新世(180万年前)の氷河時代を迎えた。祖先ゼミたちと違って、この極寒の北アメリカの地では、成虫になるのに要する期間が長くなり、南部でも12~15、北部では14~18年かかるようになった。しかも、氷に覆われない「レフージュ」と呼ばれる避難所のような土地に限られて生息できたのであった。さて、13と17は素数。すなわち他の数との最小公倍数は大きくなる。例えば、15年と18年では、最小公倍数は90、90年に1度同時に発生し、交雑(近いけれども少し違った仲間どうしで交尾して、子孫を残すこと)する機会が多くなる。交雑によってできる子供は発生周期が滅茶苦茶になっているから、(一斉に発生して)次の子孫を作れないので、その周期のセミは、何千年、何万年単位の時間で衰退し滅亡してしまう。15年と17年の周期ゼミでは、最小公倍数は255、つまり255年に1度しかこの二つのセミの交雑は起こらない。素数である17年と13年周期のセミは、交雑の頻度が少なく、それだけ子孫を残しやすかったのである。