松陰の辞世と安倍総理

  身はたとひ武蔵の野辺に朽ちぬとも
          留め置かまし大和魂
 NHK大河ドラマ『花燃ゆ』が、視聴率で苦戦を強いられているらしい。松陰妹文役の主演井上真央は悪くない。最後まで観るつもりである。
 http://www.nhk.or.jp/hanamoyu/(「NHK『花燃ゆ』」)
 わがブログで2年前「吉田松陰の辞世」と題して、そのなかで開成学園文藝部OBの『暁光以後・9号』掲載、松村雄二氏の『凸凹言いたい放談』を取りあげている。ドラマを観て思い起こしたこともあって、改めて載せておこう。

 中世国文学者松村雄二さんの『凸凹言いたい放談』は、ご隠居が聞き役の八五郎を相手に、まるで西部邁翁のように天下国家を憂え悲憤慷慨して語るという展開。今号も映画についての蘊蓄を知らされるかと思ったところ、肩すかしであった。興味を覚えたのは、吉田松陰の辞世に関するところ、

……そういえばこの前、I都知事が突然保守新党を立ち上げようってんで都議会に辞表を出したナ。さっきお前さんが話に出した新しい自民党総裁のAが、Iの政界復帰の感想を訊かれて「Iさんは『留め置かまじ大和魂』という気持ちで決断したんでしょう」といかにも知ったかぶりをして言った。吉田松陰の辞世を引用して気取ったんだが、肝心の歌の文句を間違えてたナ。あれは「留め置かまじ」ではなくて「留め置かまし」だ。「まじ」だと「大和魂を残して置くまい」と松陰の志とは真逆になってしまう。文法の知識も知らずに引用しているわけだ。NHKが夕方出したフリップでも、誰も指摘できなかったのか「留め置かまじ」と濁点つきのまま出ていた。情けない教養だ。……

 ネットでたしかめたところ、A=安倍総裁が事実「留め置かまじ」と発言したようである。

 http://www.ytv.co.jp/blog/announcers/michiura/2012/12/post-1452.html#comments(「道浦俊彦TIME」)

 安倍総裁は衆議院議員選挙を前にして、慣れているはずの辞世の句(短歌)のことばをうっかりしてミスったものだろう。むしろNHKのほうが感心しない。チェック機能が劣化しているのだろうか。ただし大河ドラマ『八重の桜』では、とうぜんであるが正しくテロップが表示されていた。
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20130211/1360565350(「吉田松陰の辞世:2013年2/11」)