幸徳秋水処刑の日

 幸徳秋水は、1911(明治44)年1/24、「大逆事件」の首謀者との冤罪で処刑された。

(写真は、下記サイトより拝借)
 http://tosareki.gozaru.jp/tosareki/shimantoshi/nakamura/kotoku_shusui.html
          (「幸徳秋水の墓」)

大逆事件」をめぐる人物群像を描いた戯曲に、福田善之『魔女傅説』(三一書房)がある。1969年3月に新宿朝日生命ホールで、観世栄夫演出、劇団自由劇場公演で舞台化されている。その後再演されているが、たぶんこの初演を観劇しているかと思うが、公演パンフレットが見つからずたしかではない。管野スガ=渡辺美佐子、行徳伝三郎=岡村春彦、新納忠雄=広瀬昌助、宮口太市=串田和美、古賀力策=山谷初男ほかのキャスティング。鮮明に記憶しているのは、明治42年の大晦日の夜、千駄ヶ谷平民社での場面。宮口、新納、スガらが行徳を囲んで密談している。宮口が持参の鶏冠石と塩酸加里の粉末を出し、交ぜると爆裂弾ができることを話し、それを仕込む二つのブリキ罐を新納とスガに渡す。スガは宮口にビュっと投げ、彼は手をのばしてうけ止める。
スガ:わからないわ、感じ。
宮口:この部屋ぐらい、ぶっこわれるね。私が即死、先生は、重傷。
スガ:そう。もういっぺん。(うけとる)……わからないわ。これが、重いのね。
宮口:一人、五箇は持てるだろう。二人で十箇、十人で五十箇。
スガ:どう変わるのかしら。投げると、とにかく、いままであったものが、なくなる、形を変える……わからないわ、軽くちゃ。重くなくちゃ。
             除夜の鐘が、鳴りはじめた。
スガ:先生、お年玉。(ひゅっと投げる)
行徳:(辛うじて、うけとめた)
新納:(金槌と鉋、それに酒と茶碗をもってくる)外は、雪だ……道理で静かだとおもった。さあ、新年だから、お屠蘇持って来ました。(宮口に金槌などわたし、茶碗を皆にくばり、かしこまって坐った)あけましておめでとうございます。
行徳:おめでとう。(スガ、宮口も)
             鐘が鳴る。
新納:明治四十三年か……この年で終わりにしてやるよ、明治を。年頭所感だ。
                     (同書pp.138~140)
 明治のテロリストたちが、未だ確たる文化的秩序のなかで暮らし、かつ謀議をめぐらしているところが窺えて感動したものである。この作品が「歴史劇にしばしば見られがちな史実のデティールについてのリアリズムは、作者によってつめたくみごとにしりぞけられている(同書:佐藤信解説)」としても、この場面の印象は薄まらない。なお登場人物の行徳はこのやりとりの後、「一人の天皇を斃して天皇制が変わるか、皇太子が天皇になるだけだ。国家がそれで揺らぐとおもうか、すこしでも。抑圧の装置としての国家が。」と、この計画に反対している。
『長い墓標の列』も、昨年上演されている。この作品もぜひ舞台化してほしいものである。
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20130312/1363075447(「半世紀ぶりの『長い墓標の列』観劇」)
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20101026/1288074150(『「売文社」創設百周年』)