ラドゥ・スタンカ劇場の『ルル』観劇

 昨日2/28(木)は、池袋の東京芸術劇場・プレイハウス内特設ステージにて公演された、ラ・ドゥスタンカ(ルーマニア)劇場の『ルル』を観劇した。演出・脚色はシルヴィウ・プルカレーテ、主演のルル役は、オフィリア・ポピ。どちらもヨーロッパ演劇界で高い評価を受けているとのことである。特設ステージは、普段の座席を通り抜けた舞台上に設営されていて、馬蹄型のA〜Fの6段の座席から中央の舞台を眺め下ろすようになってあった。第1幕は、解剖台のような大きな長方形のテーブルがセットされてある。進行によって開閉される黒いカーテンの奥にもスペースがあり、そこで殺人が行われたりするのだ。
 http://www.geigeki.jp/performance/theater016/(「東京芸術劇場『ルル』公演」) 


 貧民街で拾われたルルが、近寄ってくる男たちと結婚し次々に死なせてしまい、最後はロンドンの街で街娼の身となって、「切り裂きジャック」に殺害され臓腑を取り出されてしまう残酷な結末となる。ファムフタール(femme fatale)の系列に連なるルルの物語は、ドイツの劇作家ヴェデキントの戯曲『パンドラの箱』&『地霊』二部作が原作で、アルバン・ベルクがこの二部作をアマルガムにして3幕のオペラ『ルル』(未完成)を創り、『ルル』として普及したようである。映画では、ゲオルク・W・パプスト監督の無声映画パンドラの箱』(1929年)がある。(DVDが出ているとのことで、さっそくamazon.co.uk.に注文。)この作品の主演女優が、アメリカ人女優のルイズ・ブルックスで、大岡昇平氏は「男の子みたいな美女の系列」が「スクリーン・ラバー」だそうで、(ヘアスタイル)ショートボブのブルックスのルルは、ジャンヌ・ダルクのようで、たいそうお気に入りだったようだ。『ルイズ・ブルックスと「ルル」』(中央公論社・初版1984年)という著書を上梓している。ブルックスの髪型も容姿も、この本の写真でわかるのだ。

……「ルル」以前の西欧の悪女、「椿姫」も「カルメン」も「サロメ」ですら、一人の男の運命を狂わせただけだった。ところが「ルル」は結婚の破壊者、制度の否定者として現われる。司法も警察もどうすることもできず、同類の犯罪者「切り裂きジャック」によって、やっと抹殺される。……(同書p.53)
 さて今回のシルヴィウ・プルカレーテ演出の舞台では、同時通訳イヤホンでの鑑賞なので、台詞の音声の微妙な味わいまではわからないが、登場人物の身体性にこだわっていることは容易に理解できる。グロテスクになりそうなところで美的均衡が保たれ、興奮しそうなところで認識が求められる。ショートボブのヘアスタイルではなく、したがってアンドロギュヌス風ではないルルのオフィリア・ポピは、かたちのよい白い乳房を露にして妖しく十分魅力的であった。
 幕間で、ロビーで販売していた七字英輔氏の『ルーマニア演劇に魅せられて』(せりか書房)を購入した。「七字兄」氏とは中学・高校の同窓である。その縁でつい買ってしまった。

 http://simmel20.hatenablog.com/entry/20100528/1275029968(『現代の「JACK THE RIPPER」』)