シチリア憧憬



 NHKBSプレミアム世界ふれあい街歩き」という番組で、シチリアのチェファル(CEFALU)を紹介(再放送)していた。映画『ニュー・シネマ・パラダイス』(ジュゼッペ・トルナトーレ監督)のロケ地だ。大きな岩山の真下にあり、冬は午前中は陽が射さないらしい。映画に出てきたような美少女が登場し、楽しめた。地元美人女性店員が、グルメ案内で「いちばんのお奨めはカツィリね」と言って、やや太めのフライドポテトのような食べ物を示し、意味深な微笑をしていたのが愉快であった。
 http://www.nhk.or.jp/sekaimachi/detail/arukikata/120501.html(「NHK・BS世界ふれあい街歩き:チェファル」)



 佐藤忠男氏は、シチリアが映画人を魅了してやまないのは、その後進性にあるとし、
……しかし、貧しい地方や封建的な土地柄なら、他にも世界中にいくらでもありそうなものなのに、シチリアだけがこうも有能な映画作家たちの関心をそそってやまないのはなぜか。それはシチリア人特有の誇り高さのためであると思う。客観的には貧しくみじめな人びとが、当人は意外と昂然として堂々としている。それが見ようによっては滑稽だから喜劇にもなりやすいが、その大地に根が生えているような逞しさ、ふてぶてしさは、いっそうらやましくさえも見え、ドラマチックな悲劇のヒーローにもなれる。……(『カオスシチリア物語』CINE VIVANTパンフレット)
 ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『シチリア!シチリア!』はぜひ観たい映画であるが、歳をとった女優アンヘラ・モリーナ(Angela Molina)を観たくない想いもある。
 中世シチリアをめぐる歴史家の著述を思い起こす。かつてのHPの記事を再録したい。
◆高山博東京大学教授の『歴史学 未来へのまなざし』(山川出版社)は、副題に「中世シチリアからグローバル・ヒストリーへ」とあるように、異文化が共存した中世シチリア王国についての歴史学的関心から出発した自らの研究の軌跡を振り返りつつ、近代国民国家の機能と統合力の弱まった現代世界がどこへ向かっているのかを考察している。想像力を刺激する魅力的な書物である。『山猫』、『ニューシネマパラダイス』、『カオス・シチリア物語』などの映画の名作で、わが憧憬のこの南イタリアの島の歴史が果たした役割の大きさにあらためて気づかされた。
 フランス北部のノルマンディ地方にある寒村からやってき一族が、12世紀に、シチリア島イタリア半島南部にまたがる両シチリア王国を造ったのである。そこに生まれた優雅な宮廷文化に憧れて、フランス、イギリス、スペイン、コンスタンティノープルなどから、「ちょうど今日の人々が、ファッションや芸術に憧れてパリへ行き、ビジネス・チャンスを求めてニューヨークへ向かうように、野心と才能をもった多くの人々が、このパレルモの宮廷に引き寄せられていたのである」。20世紀の歴史家にとって、アラブ・イスラム文化ギリシアビザンツ文化という当時の先進的な文化がヨーロッパに導入される経由地点であったということと、近代国家組織の原型となるものがここで造られていただろうという二点において、中世シチリアは重要視され、またその歴史的意味が求められてきたのであった。
 中世シチリアの行政組織に近代国家の行政組織の原型を求める、イタリアのガルーフィの見解に対しては、高山教授は異論を唱えている。統合され複雑な行政組織に見えるものは、「じつはことなる制度がモザイク状に組み合わさった複合体にしかすぎ」ず、「はるかに単純なもの」としている。さらに中世フランスにも研究の対象を広げて、近代の統治システムが単線的に形成されてきたかのように捉える従来の近代国民国家成立史に関して、複眼的な視線の必要性を主張している。また、イギリスやフランスの地域的違いを無視してヨ−ロッパの現象として一般化する研究態度には疑問を呈している。
……十九世紀に基礎を確立したヨーロッパの近代歴史学は、基本的に自国の歴史を研究対象とし、近代国民国家の起源探しという枠組みのなかで、中世研究をおこなってきた。その結果、各国の歴史家たちは、フランスの歴史やイギリスの歴史という具合に、それぞれの国が中世から現代に至るまで固有の歴史をもつと考え、中世においても、たとえば、フランス(王国)という固定した国家的枠組みが存在しているのである。……(2006年6/14記)

 夜は、蒸した焼売とのマリアージュで、シチリアワイン「ドンネ・デル・ソーレ(DONNE DEL SOLE)」を呑んだ。昔愛知万博を見物した翌日、名古屋港を見下ろすイタリアレストランで、シチリア料理をいただいたことが思い出された。

歴史学 未来へのまなざし―中世シチリアからグローバル・ヒストリーへ (historia)

歴史学 未来へのまなざし―中世シチリアからグローバル・ヒストリーへ (historia)

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町に咲く、上クレマチス(品種:アメシスト)、下シラン(紫蘭)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆ 
http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20110519/1305816747(「『ハムレット』と紫蘭の花)