明日は歯医者に行く日。10/15(金)にいただいた抗生物質ジスロマック(アジスロマイシン)のおかげですっかり排便が狂ってしまい、参った。ふだん薬を飲んでいないので、たまに飲むと副作用がでてしまう。
歯医者の治療はだれでもそうだろうが、大いに苦手だ。わが舌が口腔内で暴走しがちで、治療期間中1回は、瞬間とはいえ治療器具の突端に衝突し、痛みを味わう。また無事に終わってもその妄想に怯えてしまう。歯の治療の場面を描写したものとしては、周知のように夏目漱石の『門』がある。歯痛に耐えかねて、主人公の宗助が、役所の勤務を終えての帰路、「とうとう思い切って、歯医者へ寄ったのである」。椅子に坐った宗助に「頭の薄くなり過ぎた肥った」歯医者は、その歯を揺すって見て「まあ癒らないと申し上げるより外に仕方が御座んせんな」。
……宗助は、そうですかといって、ただ肥った男のなすがままにして置いた。すると彼は器械をぐるぐる廻して宗助の歯の根へ穴を開け始めた。そうしてその中へ細長い針のようなものを刺し通しては、その先を嗅いでいたが、しまいに糸ほどな筋を引き出して、神経がこれだけ取れましたといいながら、それを宗助に見せてくれた。それから薬でその穴を埋めて、明日またいらっしゃいと注意を与えた。(『門』岩波文庫版)
まるでゲシュタポの拷問のようだ。痛そうだ。ところが痛い・苦痛などの表現はいっさいない。弟の学費・生活費捻出という家計上の難題で精神的に追いつめられているときに、この苦痛だ。ただ経過の描写のみであるからこそ、読者は、その痛みを〈身体的〉に実感するのである。さすがである。
今日(こんにち)はこれほどひどい治療ではない(と願うや切)。文明の進歩とはありがたいものである。
- 作者: 夏目漱石
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1990/04/16
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