問題の先送り

 本日歯科医院にて治療を受けた。腫れが引くにともなって痛みが消え、咀嚼力も落ちていなさそうだということで、プラーク除去治療などのあと、しばらく抜歯は猶予という仕儀となった。いっそうブラッシングに励むという努力目標も示された。こちらがビビっているのを見ての、抜歯モラトリアムということになろうか。〈温情〉ある処置に感激するも、しかし変化あればただちに来院せよとのことだ。束の間の安堵にすぎなかろう。
 さて待合室で、医院隣のコンビニであらかじめ購入しておいた『週刊ポスト』10/28号を捲ってみると、大前研一氏の『「ビジネス新大陸」の歩き方』という記事が眼にとまる。帰宅後丁寧に読んでみた。
 来年3月に期限切れが迫っている「モラトリアム法(中小企業金融円滑化法)」なる法律が、あるそうだ。中小企業の経営者などから返済の一時猶予や金利引き下げの相談があった場合、それに応じる努力義務を金融機関に課すとともに、借り手が破産した場合は貸し倒れの40%を公的に保証する、という内容とのことである。モラトリアム法を活用する企業を、当面正常債権として扱うということになるから、金融機関は、不安のある融資先を優先的に、そして健全運営の中小企業までもモラトリアム法に応募させた。結果、モラトリアム法の中小企業向け実行件数は今年3月末までに累計165万2961件、実行額は累計45兆3849億円に達しているそうだ。もし来年3月末この法律が終了すれば、相当あるはずの、本来は資金回収困難な不良債権の中小企業が借りていた金額の元本と金利のへ返済を再び求められ倒産を余儀なくされよう。そこで金融機関は、来年3月末までに破綻処理を済ませようと、担保の不動産を投げ売りしている現状なのだそうである。
……ということは、これから半年間、銀行の貸し渋り貸し剥がしが復活し、中小企業の倒産が激増することが予想される。そして国が負担する40%のツケは当然国民に回ってくる。言い換えれば、いま銀行は国民にツケを回そうとしているわけだ。/要するにモラトリアム法は、本来なら潰れていたはずの中小企業にひと時の夢を見させたにすぎず、夢から醒めた時には45兆円分の〈時限爆弾〉が炸裂するのである。しかも、それを避ける方法はない。資本主義社会は「潰れるものは潰す」というのが基本ルールなのに、それを逸脱し、社会主義的な法律を作って問題を先送りにした以上、どこかでシワ寄せが来るのは当たり前なのである。(同誌p.69)
⦅写真(解像度20%)は、東京文京区湯島のパッションフラワー(時計草)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆