TBSドラマ『あにいもうと』

 みどころ:ドラマ特別企画『あにいもうと』|TBSテレビ
 6/25(月)夜8:00〜放送のTBSドラマ『あにいもうと』は、室生犀星原作作品を山田洋次脚本&石井ふく子プロデュースでテレビドラマ化したものである。大泉洋(兄=赤座伊之助役)と宮崎あおい(妹=赤座桃子役:原作では、もん)のダブル主演ほか、原作にはない、たとえば海外研修生パティ役のシャーロット・ケイト・フォックスらを含めた脇役陣もそれぞれ好演で、昨今のテレビドラマのなかでの水準は高い。あらためて原作を読み直し、犀星文学の魅力を再認識できた。テレビドラマでは、時代性を考えて設定および展開を変えている。もんち(愛称)と大学院生小畑(原作では、学生)との結婚という、原作とは異なる大団円でドラマは終結し、母親赤座きく子(原作では、りき)役に波乃久里子が出演していて、新派の名舞台を思わせる視聴の印象であった。正直ほっとしたことはほっとしたが、時代背景の違いもあり、原作の、職人肌の川師の父の仕事と人生への厳しい想念、もんの絶望と「お金の心配だけはさせないわ」との覚悟、伊之(助)の自堕落と哀しみ、小畑の自覚していない〈狡猾さ〉が描き切れてはいない。というより描こうという意図はない。善男善女の一連の騒動と〈感動の〉幕引きという、〈予定通りの〉通俗性に落ち込んでしまったといえるだろう。フェミニズムグローバリズムという現代の潮流を、さりげなく背景として取り込んで構成しているところは、大したものである。
【設定の変更】
◯赤座(父)の職業が、原作の川師から大工(棟梁)に。伊之助の職業が石職工から、父の後継者としての大工に、そして原作の怠け癖の道楽者が誠実な男に。
◯もんちが、原作のあちこち転職している女性から、腕利きのトラックの運転手として働く女性(宮崎あおいは、この役のために大型運転免許証を取得したとのこと)に。
 しかし、伊之(助)が学生小畑を土手で殴打する場面は、台詞とともに原作に忠実で、別れ際に伊之が小畑に掛けた言葉「町に出ると乗合がある。四辻で待てばいいのだ」はいまの交通環境に即して変えていても、伊之の隠れたやさしさが窺える味わい深い台詞であった。
 伊之(助)ともんちの喧嘩の壮絶さもそのまま、面白かった。
 2011年9/17に観た、立川志らく師匠脚色・演出の『文学狂男』も室生犀星の「あにいもうと」を原作としている舞台。このかつてのHP記載の観劇記は、ブログに再録している。
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20110924/1316857839(「志らく演出と室生犀星:2011年9/24 」)


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 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20160919/1474261627(「映画『蜜のあわれ』鑑賞:2016年9/19 」)