「鬼の切なさ」

……寝苦しき鬼が踏みしか折れ桔梗
 中村苑子作。平成十三年、八十七歳で死去。若いころから病弱だったこともあって、霊界に親しんだ人だった。朝の野に桔梗が荒々しく踏みしだかれている。こんなことをするのは鬼のしわざかと思う。けれども憎らしくはない。鬼にも寝苦しいときがあって、いたずらに野を歩きまわったのだろう、と同情的である。
 鬼退治の民話はいくつか知られているが、それを「めでたし、めでたし」と喜ぶのではなくて、鬼の切なさのほうに寄り添っていくのが詩かもしれない。……( 高橋順子「鬼哭啾啾」