STAP細胞問題は謎を残して


 http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160514-00010004-bjournal-soci(「YAHOOニュース:STAP現象の確認に成功、独有力大学が…」)

 佐藤貴彦氏の『STAP細胞:残された謎』(Parade Books)は、文系人間としては細部の考察について分からないところが多いのであるが、STAP細胞問題が、生命科学〈業界〉と新旧メディアの〈闇〉のようなものの存在を暗示していて、面白く読んだ。アジアのどこかの国家と異なり、この日本では、消費増税も決断不能の権力よりも、〈権威〉のもつ〈暴力性〉のほうがむしろ怖い場合があるのかもしれない。なお昔交通事故で亡くなったわが姪が、原子物理学の世界レベルの研究者であったので、〈画期的発見をした〉のが若き女性科学者ということじたいには、それほどの感銘は受けていなかった。
 http://uigelz.eecs.umich.edu/pub/articles/jqe_26_1639_1990.pdf
 (「Energy Loading Effects in the Scaling of Atomic Xenon Lasers」)
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20110417/1303024186(『「原子力」のことばから:2011年4/17』)
 印象に残った、佐藤貴彦氏の指摘と疑問をノートしておこう。
◯また、この番組(NHKスペシャル)では、きわめて紛らわしい編集がなされている。すなわち、この番組では、(1)STAP細胞にアクロシンGFPが組み込まれていた。(2)若山研では、アクロシンGFPを組み込んだES細胞が作られていた。(3)留学生の作ったES細胞が小保方氏の冷凍庫から見つかった。ーーという話が順番に述べられている。したがって、この番組の流れからすれば、「アクロシンGFPの入ったES細胞=留学生の作製したES細胞」であると想像した視聴者は多かったであろうと思われる。ところが、後になってわかることだが、留学生の作製したES細胞は、STAP細胞の捏造に用いられたとされるアクロキシンES細胞とは何の関係もなかったのである。
 STAP細胞にアクロキシンGFPが組み込まれていたことを述べておいて、その後にアクロキシンの組み込まれていないES細胞が小保方氏の冷凍庫に見つかったことをことさら問題にするという番組の編集の仕方は、かなり不自然に感じられる。STAP細胞実験とは何の関係もないES細胞のことを追及したところで、なんら事件解決の役には立たないからである。(p.23)
◯また、仮に若山研の冷凍庫にFES1(※調査報告でSTAP幹細胞FRSに混入したとされるES細胞)が置き忘れていたとし、さらに小保方氏が偶然それを見つけたとしても、誰が作製したのかもわからず、その中身に関して確実な保証もないサンプルを(たとえ捏造のためであれ)使おうという気になるだろうか。リスクが大きすぎる。かなり無理のある話である。※小保方氏が「マウスの系統に関する知識がまるでなかった」ことは、若山証言で裏づけられる。(p.56)
◯おかしなことに、「留学生のES細胞が盗まれた」というこの話は、盗難に遭ったという研究室の主である若山氏の口から直接語られたことは一度もない。すべて匿名の「理研関係者」の話として出てくるのである。おそらく、2ちゃんねる怪文書の主と、週刊誌に頻繁に登場する語り手の「理研関係者」とは、同一人物であろうと推測される。(p.87)
◯STAP騒動の以前から、論文不正の事件は数多く生じている。なかでも元東京大学分子細胞生物学研究所教授の加藤茂明氏の論文不正は、かなり大規模なものであった。東京大学科学研究行動規範委員会の調査報告によれば、三十三の論文で百十箇所の捏造や改竄があったと認定され、不正行為を行なったと認定された者は、加藤茂明氏をはじめ柳澤純氏、北川浩史氏、武山健一氏の四名、筆頭著者で図の捏造・改竄に関与した者は、古谷崇氏、高田伊知郎氏、藤木亮次氏、須澤美幸氏、田辺真彦氏、神津円氏、金美善氏の七名、計十一名、費やされた研究費は十五億円にのぼるという。
 この論文不正の調査報告は、STAP細胞の論文不正の調査報告と同じ日に行なわれたこともあって、ほとんど世間の注意を引かなかった。STAP問題についてはあれほど鋭く追及したマスコミも、この問題については、ほとんど追及しなかった。処分もウヤムヤにされ、加藤茂明氏は東大を辞職して現在相馬中央病院放射線対策室長を勤めている。(pp.109~110)

◯ Moreover this figure has been reconstructed. It is normal practice to insert thin white line between lanes taken from different gels(lanes 3 and 6 are spliced in ).
 ここでは、電気泳動の写真が切り貼りされていることを指摘したうえで、異なるゲルに由来するレーンの写真を貼付けた際には、その間に白線を入れて区別するようにアドバイスしている。つまり、実質的には理研と同じことを指摘しているわけである。ただし、ここで注意してもらいたいのは、切り貼りそのものが悪いと指摘しているのではないということである。異なるゲルの写真を切り貼りした際には、それが異なるゲルに由来するものであることを区別しておくように、と言っているだけである。
 しかし、ここでむしろ不思議なのは、小保方氏がこのとき『サイエンス』誌のアドバイスに従わなかったことである。このアドバイスに従って何の不都合もなかった。従ってさえいれば何の問題もなかった。なのに、なぜ、あえてこれに従わなかったのかが不可解である。やはり「白線をいれるのはいやだった」「きれいに見せたかった」という以外の動機は見当たらないのである。(pp.129~130)
電気泳動とは、「DNAを特定の塩基のところで切断し、断片にして、電場のかかったゲルの上を泳がせ」DNAを調べる方法。
◯つまり報告書(※桂調査委員会調査報告書)では、「Oct4-GFP挿入のB6由来FI幹細胞」の実在は、ほぼ否定されているといってよい。ところが、その一方で、「RNA-seqデータ解析では、Oct-GFP挿入のB6由来F1幹細胞であることがわかった」と言うのである。
 なぜ、このような矛盾した事が何の説明もなく堂々と主張されているのか。 
 もしも。小保方氏がB6由来のES細胞にTS細胞を混ぜて捏造したのだ、というのであれば、「B6由来のES細胞を混ぜたサンプル」がなぜ見つからなかったのか。他のサンプルは見つかっているのに、なぜこれだけが見つからなかったのか。
 単なる紛失であろうか? しかし、それ以外のSTAP細胞関連株は全て見つかっているのに、これだけ見つからないというのも不自然である。(p.175)

◯ここであえて「STAP細胞は本当になかったのだろうか」という疑問を投げかけることは、大多数の顰蹙をかうことが予想されるけれども、このような少数意見を述べることのできる社会こそが健全な社会であると筆者は信じる。(p.11)
【参考:Twitterから】
Keiko Torii:私もアメリカへ頭脳流出した側ですが、こちらは研究不正に対して非常に厳しく、同情より証拠による説得を求め、また若い未熟な女性の涙を憐憫する文化もない。本人も、海外で活躍など無理だと判っているから、国内の科学と無縁な方達にアピールしているのでしょう。(5/23)
Don Micheletto バイクくん:小保方STAP論文は撤回されたので彼女の関連業績はゼロ ・誰かがSTAP細胞を作製して論文として報告すれば業績は全てその人(グループ)のもの。 これがルールです。 そうしないと適当なやっつけ仕事で論文を出して先取権を取れてしまう。(5/25): 加藤さんはともかく他の実行した若手には相当厳しい処分が下されてるよ。一報で学位剥奪の方もいるから小保方さんが不当に重い処分とはいえないと思う 。(5/26)
片瀬久美子瀬戸内寂聴さんの応援を得たからか、小保方さん支持者たちからのわけの分からない攻撃が急増…。こりゃ、ネタに事欠かないわ。(5/26)
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20130802/1375429610
(「再生医療の可能性・大和雅之博士:2013年8/2」)