モーゲンソーの『国際政治(上)』(岩波文庫・原涁久監訳)第二部「権力闘争としての国際政治」の第六章「権力闘争ー威信政策」に、威信政策としての軍事的示威行動のことが述べられている。なるほど、北朝鮮は過去のアメリカから学習しているのである。いまは他国のオブザーヴァーなど招待せずとも、映像を通して全世界にその軍事力を誇示できるだろう。
◆威信政策は、外交儀礼のほかに、その目的を達成する手段として軍事的示威行動を用いる。軍事的な強さは一国の力の明白な尺度であるがゆえに、その示威行動はその国家の力を他国に印象づけるのに有益である。たとえば、平時の陸・海軍の演習に外国の軍事代表が招待されることがあるが、これは、軍事上の秘密を彼らに知らせるためではなく、その国の軍備を彼らやその政府に印象づけるためなのである。一九四六年、太平洋での二回の原爆実験に外国のオブザーヴァーを招待したのは、アメリカにこれと同じような目的を果たす意図があったからである。このとき、外国のオブザーヴァーには、アメリカの海軍力とその技術上の成果が強く印象づけられた。『ニューヨーク・タイムズ』紙は、「国連原子力管理委員会の二人のオブザーヴァーは、……アメリカが世界の海軍を多数集めたよりももっと大規模な艦隊に爆撃を加えているのだと、本日、認めた」と報道した。他方、外国のオブザーヴァーは、原爆が水上および水中でどんな効果を及ぼすか、また原爆を独占している国家がそれをもたない国家に比べ、軍事力においていかに優越することになるのかを思い知らされることになったのである。……(pp.204~205)