ハロルド・ピンター忌2015年


 2007年12/24逝去のノーベル文学賞受賞劇作家ハロルド・ピンター(Harold Pinter)の作品について、1986年9月初版の、石川敏男・寺崎裕則共著『現代英国演劇』(朝日出版社)第八章「英国の劇作家」で記述されている。とうぜん全作品を俯瞰したものではないにしても、大いに参考となる。
……ピンターの作品は、〈脅威の喜劇〉、つまりある状況におかれた人間が脅威にさらされている喜劇といわれている。脅威の源は、はっきりしていないことが多いので強い不安感を作り出す。閉ざされた部屋に場面が設定され、部屋の外の世界が脅威を与えていることを暗示するといった具合である。登場人物は伝達する手段をもちながらそうしようとしない。この非伝達の能力は言葉と対話の巧みな使用にある。現実的な言葉を使うのは人々の言うこと、言わんとすることの違いを強調するためである。現実を不条理なものとして捉えるピンターは「我々に聞こえない台詞を指示するもの」として、矛盾と非論理的な台詞を積み重ねてゆく。そして、現実以上に現実感を与えることに成功したのである。……(pp.167~168)