文学産業は


 あまり文学館という施設を訪問したこともなく、個人的に関心は薄いが、『文藝家協会ニュース』755特別号の「〈シンポジウム〉文学館の現在と将来」の報告記事は、面白く読ませてもらった。進行役の関川夏英氏の冒頭のことばは、そういうことかとあらためて思わされた。
関川:出版産業・文学産業は、この二十年間下り坂をつづけています。この業界には新人は参入しない方がいい。定職をお持ちで週末に小説をお書きになる方はいいかもしれませんが、専業作家にはきわめて厳しい時代です。
 今年は「昭和」で言えば、九十年ですが、いまの文学産業は昭和三十年代終わり頃の石炭産業に近いものがある。そうしたなかで今日は文学館のことだけでなく、文学者にとっての死活問題である「文学」の現在と将来のことも考えたい。
 文学はわれわれが生きる上で必要なものですから、消えてはいかないし、消してはなりません。そういう主題を、「文学館」という具体性の中で考えていきたいと思います。……
 北九州市立文学館長の今川英子氏は、自身の最後の発言で文学館の役割について希望を語っている。とくに異議はあろうはずがない。
今川:これからは若者、子どもたちの文学体験がとても大切だと思います。大学生の四割がいまは読書体験ゼロだと言われていますが、彼らにアンケートをとると、けっして本を読みたくないわけではない。かつてはそれを知らないこと、読んでないのは恥だという本がありましたが、いまの学生はそれを恥だとは思わない。これだけたくさんの情報が世の中に溢れていれば当然です。読みたいけれど、何を読んでいいかわからないのです。子どもの頃の読書体験は、その人の人生を左右すると私は思います。子ども向けの絵本や読み物と大人向けの文学との間をつなぎ、若い人を導いていく役割も文学館は担っているのではないかと思います。……

⦅写真は、東京台東区下町民家のクルクマ(Curcuma:ハナウコン)。小川匡夫氏(全日写連)撮影。コンパクトデジカメ使用。⦆