葉山修平『かもめ狂想—山中葛子句集『かもめ』に和す—』(龍書房)

(カバー絵:高橋甲子男)
 葉山修平『かもめ狂想—山中葛子句集『かもめ』に和す—』(龍書房)が上梓された。400句ほどの句の中から、三十六句の歌仙の形式を踏まえた二十四句俳諧としての〈胡蝶俳諧〉にふさわしい作品を選び、俳諧であるから12句は上句・下句いずれかの5音を削除した付句として編む。その句から触発されたエッセイ・小説を展開させたのがこの著書である。文学史的なジャンルからいえば、表現における風土性への固執は別にしてノーマン・メイラーの『ぼく自身のための広告』に近いかもしれない。
 ネットで知られる作者自選句と、〈胡蝶俳諧〉に選ばれた句(「花座」確保のために「花びらを何度もかぶり草枕」を選んだりしているので、必ずしも共鳴句とは限らない)とを比べると、まったく重なってはいない。面白い。

【自選句】
鳶の輪の絶対音感夕焼ける
白菜よときに相思鳥の呼吸
さしも草手紙書くとき妹であり
もうごはんまたごはん白さるすべり
妻だけの踏む暗がりや蚊帳吊草
藤五尺抽象にさしかかりしか
ロボットのつるつることば冬灯す
無欲という欲望のあり紫金牛
夕焼の古くてかわいい道に出た
鼠取りふたつ吊るして月の家
未来少少藤のむらさき本気なり
はっとふたりどきっと茸飯の夜
 http://takanomutu.exblog.jp/22407253(「高野ムツオ応援サイト」)
 http://ht-kuri.at.webry.info/201406/article_7.html(「栗林弘のブログ」)
 http://kanchu-haiku.typepad.jp/blog/2014/06/十五句抄出山中葛子句集かもめ.html
    (「閑中俳句日記:【十五句抄出】山中葛子句集『かもめ』」)
 中十二句中の「昼月も鳶も斜め相席なり」。寸評、「〈白昼夢〉というのは本当にあるものだ、と彼は自分にいってみる」。さて、ここで幻想小説「青き魚を釣るひと」が採り上げられている。世にある読み物としての小説と、文学としての小説の相違をここで知ることができよう。そして、異質な表現ジャンルの稀有な出会いの仕掛けにも感嘆するであろう。
 なお句集名の「かもめ」では、『かもめ狂想』の著者のようにふつうはチェーホフの『かもめ』を想起するところだが、個人的には昨年師走の「若林圭子リサイタル」で知った、リュシアン・ボワイエ(Lucien Boyer)作詩・作曲の「かもめ」が聴きたくなる。ダミア(Damia)が唄う。