アッバス・キアロスタミ監督『Like Someone in Love』


 アッバス・キアロスタミ監督の『Like Someone in Love』をDVD(Criterion Collection)で鑑賞。映画の梗概は次のサイトに適切にまとめられている。
 http://www.likesomeoneinlove.jp/(『キアロスタミ最新作「ライク・サムワン・イン・ラブ」』)
 老人の孤独と悲哀、青春の倦怠と凶暴性、ひとの悪意と善意などが淡々と描かれていて、大した事件こそ起きていないが終始退屈しない。それぞれが一生懸命生きているらしい脇役の人物たちの話し振りが愉快で、空間のなかの人間の配置が空間とともに移動することによって、関係のあり方が変化してくる、このあたりの描き方が巧みである。元大学教授の老人(奥野匡)の家のガラス窓が、恋人(高梨臨)が高級派遣デート嬢として彼のところを訪問していたことを知り、激高した自動車整備士の青年(加瀬亮)によって外から割られるところで映画は終わる。唐突のようだが、三者の打開策なしの滑稽にして悲惨な関係を暗示していて納得できる。


 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20140808/1407471104(「アッバス・キアロスタミ作品と高梨臨」)
 この元大学教授が研究・教育していたのも、高級派遣デート嬢のアルバイト女子学生が専攻しているのも社会学というのが、興味深い。みずからの人生と、現実の他人との関係性をなんら実践的に解明し得ない学問の無効性を浮き彫りにしているようである。もっとも現実社会には、こんな社会学研究者もいるのである。おそらく、かの社会学宮台真司氏のかつての〈仕事〉に影響されたのであろう。事実は「映画」よりも奇なりというべきであろうか。

 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20110730/1312007429(「社会学者もいろいろ」)
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20140523/1400826177(「はなより花子:2014年5/23」)