老年と趣味

 小浜逸郎氏の『死にたくもないが、生きたくもない』(幻冬社新書)は、いわゆる〈団塊の世代〉に属する著者が、定年退職してからも「枯れることが許されず」、医師の日野原重明氏のように「イケイケ」の生き方を理想として求められるのは、かなわないと表明したものである。病院は高齢者の患者で溢れている。平均寿命が延びたなどといっても、驚くような例外は少なくないにしても、ほとんどは病気を抱えながらかろうじて生きているのが実情だ。
 定年退職してからの趣味などに情熱を傾ける「悠々自適」の生活が奨められるが、それに対しての小浜氏の反発には、大いにとはいえないが共感を感じるところもある。
……人間はすぐ退屈する動物であり、自分のやっていることの「意味」を考えてしまう動物である。趣味に生きるといっても、そんなに一つや二つの趣味に没頭して長い年数を明け暮れる人がたくさんいるだろうか。「趣味」が実感できなくなったとき、どうすればよいのだろうか。
 そば打ちをやろうが、山歩きに精を出そうが、短歌サークルに属そうが、土をいじろうが、そこで得られる満足感は、ある年齢以上になればたかが知れている。
 また競争心をかき立ててくれるような趣味であっても、しょせん大部分はアマチュアの域を出ない。これから一芸に秀でることができる人など、ごくわずかにすぎない。
 それを悟ったとき、満足感を持続させられるだろうか。しだいに募ってくる虚しさを押し殺せるだろうか。……

死にたくないが、生きたくもない。 (幻冬舎新書)

死にたくないが、生きたくもない。 (幻冬舎新書)