枢機卿(父)と娼婦(娘)




 ひとりの枢機卿が主人公の映画といえば、フランシスコ・レゲイロ(Francisco Regueiro)監督のスペイン映画『わが父 パードレ・ヌエストロ(Padre Nuestro)』を思いおこす。1989年7月にシネ・ヴィヴァン六本木で観ている。。若いころは放蕩者であった枢機卿フェルナンド・レイ)が医師から死の宣告を受けて、30年ぶりに故郷に帰り、かつてマリア(エンマ・ペネリャ)に生ませた娘(ビクトリア・アブリル)と出会う。ヴァチカンへワインを提供している肥沃なブドウ園ほか多大な財産を娘に残したいと考え、弟との結婚を企てる。この間マリアの夫で、育ての親の羊飼いが絶望して自殺している。娘はじつは娼婦となっていて、「女枢機卿(カルデナラ)」と名のって売春宿で商売をしている。枢機卿は、客としてお金を払って売春宿に娘カルデナラを訪ねる。枢機卿は、シーツをまとっただけのカルデナラに洗礼を施した直後倒れる。病室での電話での教皇(法王)との(おそらく重要な)対話があったらしいが、最後のシーンは記憶にない。
 宗教学者植島啓司氏は、映画パンフレット(発行シネセゾン)で、「もっとも厳粛なものともっとも猥雑なものとが一致するというのは、かねてより宗教学の基本テーマのひとつであった」とし、
……だが、いずれの場合も、両者は必ずどこかで結びついてしまうのではなかろうか。その場合、境界のまたぎかたによっては、この世のものとは思われないほど美しいものがたち現れることもあるだろうし、また、信じられないほどグロテスクなものが登場したりもすることだろう。そういう意味では、深紅色の帽子と法衣をつけた枢機卿が娼家に出かけるシーンは、映画のクライマックスではあるものの、まさに異様としか表現できない場景であった。……(p.15) 
 カルデナラを演じたビクトリア・アブリル(Victoria Abril)は当時25歳、とても初々しかった印象がある。
 http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=40223(「ビクトリア・アブリル」)
⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家のステラ(Sutera)or(旧名)バコパ(Bacopa)のコスモホワイト。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆