『炎舞』のこと

 
 澤田繁晴さんの『炎舞』(龍書房)が発刊された。『輪舞』(審美社)につづく第二評論・エッセイ集である。どちらにも「文学・美術散策」との副題がついている。両分野にまたがって旺盛な関心と批評活動を持続させてきたこの著者にふさわしい。
 川端康成学会および室生犀星学会に所属しているとのことで、長谷川等伯論を別にして、この二人の作家を扱った論考が柱となっている。
 伊藤整室生犀星のそれぞれの「詩との訣別」を比較論じた「詩との訣別」を再読、面白かった。伊藤整の場合は、いくつかの微妙に異なる「外なる問題」の故に、詩を書かなくなったのに対して、犀星の場合は、みずから述べている「時間の経過と心の荒廃のために詩心とは縁遠いものになった」という「内なる問題」故に、詩から遠ざかることになったのだと考察している。

 澤田さんと同じく「群系」(永野悟氏編集責任)同人でもある勝原晴希氏も執筆者に加わっている、野山嘉正氏編『詩(うた)う作家たち』(至文堂)収録の、堤玄太氏の「『鉄(くろがね)集』小考—室生犀星における詩と小説の解明のために」では、
……昭和十一年刊行の自伝小説『弄獅子(らぬさい)』を見ると、その冒頭が、自らの人生を自分の子供たちに語る形式で書き起こされていることがわかる。自らの人生を突き放してみる視点をもつ語り手を設定したということは、彼の方法意識の上で、〈私〉を主人公として単純に物語を展開させた『幼年時代』執筆当時とは大きな変化が生じたということの証左といえよう。犀星の中での「峻烈な自分自身の批評」精神、即ち〈小説的なもの〉が芽吹き、伸長していったのである。……(同書p.200)
 つまり犀星自身の自己相対化を経て、それぞれ独立した個性を持つ人々による「人生の紛糾」を描き出せるだけの視座を獲得できたという、内部における変容があったと考察している。してみると澤田さんの直観は外れていないのだろう。
 巻末参考文献中、『現代文学論争』(筑摩書房)の発刊は、「昭和22年」→「平成22年」、『室生犀星事典』(鼎書房)の発刊は、「昭和20年」→「平成20年」に訂正されたし。
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20100624/1277369526(「室生犀星原作・NHKドラマ『火の魚』」)
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20110924/1316857839(「志らく演出と室生犀星」)
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20120124(「雪と室生犀星」)
 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20120419/1334826501(「『室生犀星文学アルバム』の出版」)
(「『炎舞』感想会本人挨拶」)

⦅写真(解像度20%)は、東京台東区下町民家の 、沈丁花の花芽。小川匡夫氏(全日写連)撮影。⦆