『室生犀星研究』第40輯発刊



 室生犀星学会(笠森勇会長)の機関誌『室生犀星研究』第40輯が発刊された。
『星の広場・犀の眼』コーナーに、「葉山修平氏追悼」の特集が設けられている。前会長であり、昨年つくしこいしが鳴く季節に逝去されたことによるもの。各氏の追悼文、興味をもって読んだが、『小説室生犀星』(冬樹社)についての論考があればよかったかと。
 森晴雄氏の『室生犀星「香爐を盗む」―川端康成「心中」「合掌」に触れつつ―』を読む。室生犀星の「香爐を盗む」は、昔文庫収録のものを読んでいるので、その文庫本を探してもむろん見つからない。諦めて、川端康成の『掌の小説』(新潮文庫)所収の、「心中」と「合掌」をあらためて読みなおした。 
「心中」は、『掌の小説』中の代表作の一篇であるとのこと、この掌篇小説集について著作のある森晴雄氏の指摘、心して読んだ。犀星の「香爐を盗む」との共通点を五つ挙げていて、5番目、作中の「音の重要な役割」についての記述が面白かった。「香爐を盗む」で、主人公の男が女を「音を立てない女」とし、恐れるところが描かれているが、さて、

「心中」もまた、音は重要な役割を果たす。夫は子供の靴の音、飯を食う茶碗の音を禁じ、妻は素直にそれを受け入れ、フエルト草履に代え、自分の箸で飯を食わせる。庭に突き飛ばした食卓、壁、襖にぶつかった音、娘の頬を打つ音など音の描写が続き、最後は「お前達は一切の音を立てるな。」という、夫の手紙による命令に従い、妻と娘は死ぬ。
「香爐を盗む」は「彼女が物音を極端におそれた」とあるように妻が、「心中」は夫が音を極端に嫌う。「香爐を盗む」は最初から、「心中」は夫の命令によって、音のない世界が描かれている。

「合掌」では、透視の力によって相手を縛りつけようと企てるところに、「香爐を盗む」との共通性があるとしている。面白い。

(1・3については省略)
2 「合掌」は彼(男)が妻(女)を透視により縛り付けることに成功する。「香爐を盗む」は女(妻)の方が男(夫)を縛ろうとしたが、成功しないで亡くなることになる。

「香爐を盗む」と「心中」の発表の時系列を辿り、その共通点などと併せて、『「心中」の執筆に、「香爐を盗む」が大きく関わっていることが明らかであろう』とし、そして「陶器を割ることで作品の山場を迎え、破綻する夫婦関係を暗示的な死で示し、作品を閉じている点で、二作品は強いつながりがあると考えられる」としている。
 アメリカの「老いぼれ」氏と、北朝鮮の「ロケットマン」とのチキンゲームは怖いが、ミクロな世界における男と女との透視(支配)をめぐる闘いも、破滅に至る怖さがあるのである。



 http://d.hatena.ne.jp/simmel20/20160919/1474261627(「映画『蜜のあわれ』鑑賞:2016年9/19 」)